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2014-11-08 09:21

(連載2)ロシアに空から包囲されるヨーロッパ

河村  洋  外交評論家
 歴史的に見て、ノルウェーからスコットランドにいたる海空域は大国の係争の場である。両世界大戦ではこの海域でイギリスとドイツが激しくたたかった。冷戦期にはこの海空域がソ連の水上艦隊および潜水艦勢力に対するNATOの防衛線であった。今日ではこの海空域は英露衝突の場である。私はノルウェーからスコットランドの海空域がロシアの支配下に入ればアジアとヨーロッパを結ぶシーレーンが切断されかねないと主張したい。最近になって北極海航路の潜在性にアジアとヨーロッパ双方の政策形成者達が注目している。しかしカナダ沖の航路をとったとしても、大国がぶつかり合う海空域に国際的な商業船舶が入り込んでしまえばロシアの甚大な脅威に直面するだろう。

 こうした観点からすれば、ロシアの海軍攻勢も注視しなければならない。アメリカのジョナサン・グリナート海軍作戦部長は「ウクライナ危機よりロシアの潜水艦の動きが活発化しているが、水上艦隊の方は老朽化が目立つ」と語っている。海中の脅威に対抗するにはハンター・キラーとも呼ばれる攻撃型原子力潜水艦が有効な手段の一つとなる。ファスレーン海軍基地は世界最強のハンター・キラーの一つと言われるアステュート級潜水艦の母港でもある。同級艦には世界で最も効果的なソナー・システムが装備されているので、潜水艦のように隠密性が要求される兵器体系が「ファースト・ルック、ファースト・シット、ファースト・キル」を行なううえで非常に有利になる。スコットランド周辺の空と海は、ロシアの進出を阻止するうえではそれほど戦略的に重要なのである。

 ここでロシアが東アジアでも同様な行動をとっていることを銘記すべきである。今年の10月19日時点では日本の航空自衛隊はロシア軍機に対して6ヶ月以内に533回のスクランブルを行なっているが、これは昨年同時期の308回より大幅に増加している。ウラジーミル・プーチン大統領が何を言おうとも、これが日本に対してロシアが行なっていることである。我が国はNATOと同様な脅威に直面しているのである。ナショナリストや左翼は日本がウクライナ危機に関して欧米から自主独立路線をとるべきだと主張する。

 絶対的な事実はそうした主張をきっぱりと否定している。そうした主張をする人達はクレムリンが深層心理では日本に対して好意的だという証拠を握っているとでも言うのだろうか。 ヨーロッパとアジアはロシアという共通の脅威を抱えている。よって双方は戦略的な政策調整を深化する必要がある。ヨーロッパ諸国の中でも東アジアとの関係強化に最も積極的なのはイギリスで、それは再優先化(re-prioritisation )という語によく表れている。 スコットランドと北海道の安全保障情勢はそれほどまでに似通っている。(おわり)
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