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2014-09-29 06:39

シリア空爆は「支持する」に転換を

杉浦 正章  政治評論家
 シリアへの空爆が意味するものは「逃げたいオバマ」が、再び中東戦争に引きずり込まれたことを意味する。あらゆる専門家が戦争の長期化を予想しており、好むと好まざるとにかかわらず日本も軍事的、経済的関与を迫られることになろう。首相・安倍晋三はシリア空爆をややトーンを下げた外交用語の「理解する」にとどめたが、米国の戦いは邪悪なるものに対する正義の戦いとしてアラブ世界や国際世論のまれに見る支持を受けている。「巻き込まれ論」は日本の民放コメンテーターや、低級極まりないラジオ評論くらいのものだ。まずは日本も「支持する」に転換すべきであろう。注意すべきは経済支援だけでは、湾岸戦争と同様に世界中から嘲笑の対象となる恐れがある。テロに対して備えを強化し、状況の変化によっては国連平和維持活動(PKO)、後方軍事支援、医療活動まで視野に入れた対応が必要になるのではないか。安倍は9月23日ニューヨークで有志連合によるシリアのイスラム国空爆について「米国を含む国際社会のイスラム国に対する戦いを支持する。米軍によるシリア領内の空爆も事態の深刻化を食い止める措置として理解する。日本は国際社会と緊密に連携して、難民支援や周辺国への人道支援など軍事的貢献でない形で、できる限りの支援を行う」と言明した。戦いは「支持する」が空爆は「理解する」にとどめた理由は何か。

 安倍がトーンを下げたのは様々な要素が複合的に作用したと見るべきであろう。官房長官・菅義偉が「空爆の詳細について我が国は掌握をしていない」と述べた。これは米国が戦果を挙げるための極秘対応か、日本軽視かは分からないが事前の詳細なる説明をしてこなかったことを意味する。内容も知らないままもろ手を挙げて賛成するようでは政府が軽率のそしりを受けることになり、無理もない対応と言える。2003年のイラク戦争の際は小泉純一郎が世界の先陣を切って「支持」を表明して、ブッシュを喜ばせた。事前に米国の連絡があったことはもとより、英国首相・ブレアから「私も支持表明するので是非支持して欲しい」という要請があった。小泉は「こういう時ははっきり言った方がよい」と、外務省の「理解する」という案を「支持する」に変えて先陣を切って表明したのだ。一方、安倍は集団的自衛権の行使容認の閣議決定に当たって「湾岸戦争のケースにもイラク戦争のケースにも自衛隊は派遣しない」と明言しており、集団的自衛権の行使関連法案はまだ作成の端緒についたばかりである。ここで前のめりになって野党の追及を浴びたくない気持ちがあったのであろう。

 シリア空爆は40回を越えている。当初の爆撃で資金源である石油精製施設は壊滅したが、イスラム国側の戦闘員はそれほどの打撃を受けていないと見られている。スンニ派武装勢力を中心とするイスラム国は、配下に2万ー3万人の戦闘員を抱えているとされている。米軍はマッハ2の最新戦闘機F22まで使った空爆であったが、蠅叩きでスズメバチの巣を打ち壊すようなものではないかと思う。追い散らすことは出来ても、また巣を作られて、壊滅的な打撃には到らないだろうからだ。しかし、イスラム国が戦術の転換を迫られたことは間違いない。大きな侵攻の動きがあれば上からは丸見えであり、集中攻撃の的になる。当然無人偵察機や無人爆撃機もフル動員される。このためイスラム国勢力は制圧したイラク第2の都市モスルを始め大きな都市に潜入する戦術を採り始めており、事実上の“市民人質戦術”に出るだろう。爆撃での壊滅は市民を巻き添えにするため不可能に近い。オバマは将来的にはシリアの反政府勢力やイラク軍にテコ入れすることによって、空爆と連動した地上からの制圧に頼らざるを得なくなるものとみられる。ところがこれは百年河清を待つに等しい戦いではないかと思う。やはりテロ組織を一掃するには、米軍の特殊作戦部隊(SOF)や顧問団を出し、イラク軍とスンニ派部族、クルド人民兵組織、シリア反体制派組織などと共同作戦を展開する地上戦が不可避とみられる。地上軍を投入してひとつひとつ拠点をつぶさなければ決着はつかないのである。

 爆撃だけではベトナムの北爆と同じで、ゲリラには効果が少ないのだ。いずれにせよ戦いは長期化が予想される。空爆が継続している限りにおいて、日本の当面の立場は「理解」から「支持」へと一歩前進させることくらいしかないと言ってよい。もちろん難民への人道支援での経済援助も推進せざるを得まい。だが湾岸5か国の参加に加えてヨーロッパもイギリスが参戦。慎重だったフランスも方向を転じ、ベルギー、デンマーク、オランダまでが空爆に参加する流れとなっている。有志連合は60か国以上に達している。将来地上戦へと事態が発展した場合、日本の出方によっては、下手をすると「日本フリーライダー論」に火が点く可能性がある。思い出すのは1991年の湾岸戦争でアメリカに130億ドルも“ふんだくられ”ながら、国際的には嘲笑の的となったことである。この苦い経験がイラク戦争での自衛隊派遣となり、インド洋での給油活動となり、集団的自衛権の行使容認への流れとなってきたのである。国際情勢の目まぐるしい展開は法案が出来ていないうちから日本の貢献を必要とする要因を生じさせているのである。ことは国際正義の遂行であり、日本も戦争の長期化とともに将来的には経済援助に限定せず、積極的にPKO活動に参加し、後方支援、医療活動などでの軍事的貢献などを迫られるケースが出ると覚悟した方がよいかも知れない。臨時国会では集団的自衛権問題も絡んだ安保論争となるだろう。
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