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2014-09-21 00:00

天津シンポジウム

池尾 愛子  早稲田大学教授
 9月6-7日に開催された、南開大学日本研究院での国際シンポジウム「日本近代化(現代化)過程における改革・社会変動とガバナンス」 等の様子を今少し紹介しておきたい。日本の経済、文化、外交、政治、社会についての研究発表が行われた。基調セッションでは、「近代日本のナショナリズムの高揚と国家ガバナンス」と題する報告に質問が集中した。福沢諭吉(1835-1901)に関する丁寧な叙述を含んでいたので、私もセッション後に少し話をした。報告者は、「福沢諭吉は、開国後、日本に外国の事を紹介し、どう対処すべきかを示した啓蒙家である、このことは事実として受け止めなくてはならない」、と慎重な言い回しをした。別言すれば、脱亜論のため、中国人の福沢に対する厳しい評価には変化がないようであった。

 プログラムを見る限り、中国人研究者の発表には戦争が出てきそうなものはなく、実際、私の出席した基調セッションと並行セッションでは、彼らは戦争には一切言及しなかった。いちばん楽しかった発表は、井原西鶴の海賊版についてビジュアルに紹介したものであった。圧巻だったのは、1923年9月の関東大震災後の東京市の予算編成を調べた研究発表である。東京市は6年間にわたって復興特別予算を組んでいた。大震災後の復興には時間と労力がかかることを改めて感じさせる、ずしりと重い研究成果であった。

 そのほか、日本の発明カラオケの世界的普及、日本の国家公務員制度、日本の女性労働者登録制度、日本の政権交代、日本の分配問題、富岡の製糸業などをテーマとする発表があった。日本のNPO(非営利団体)活動、日本の財産税の歴史、日本のGATT・WTO(関税と貿易に関する一般協定・世界貿易機関)での農業交渉の過程、日本の住専問題などをテーマとする研究発表を聴くと、中国のデータや資料が入手できれば、日中比較研究がすぐにも実現しそうに感じられた。歴史研究や応用研究には、良質のデータや資料が不可欠である。それは、中国研究にもあてはまる。

 私も戦争にはふれなかった。報告では、天野為之(1861-1938)の同世代である、内村鑑三(1861―1930)、新渡戸稲造(1862―1933)、岡倉覚三(天心、1863―1913)にも注目した。そのため、中国人研究者から「天保世代みたいですね」とコメントされたので、「天保世代から学んだ世代です」と応じた。幕末・維新期に活躍した人たちの多くが天保年間(1830-43)に生れていた。福沢は天保世代である。天野が万延元年、内村が万延2年、新渡戸と岡倉が文久2年の生れで、旧暦年と西暦年の対応に気をつけなくてはならない。4人とも、日本人や日本の文化・伝統にも注目し、天野以外は英語で日本を紹介したのであった。今年10月後半に予定される中国での国際会議において、戦争には触れずに、それでも違った角度から天野を論じる予定である。
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