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2014-09-20 10:42

(連載3)成長戦略の足元は大丈夫なのか

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 先日、首相官邸で首相と黒田東彦日銀総裁の会談が5カ月ぶりに行われた。会談の詳細は分からないが、タイミングとして経済の現状や金融政策の妥当性に対する民間の疑問が広がり始めていることと無縁ではありえない。総裁は会談後「2%の物価目標達成に困難を来せば、ちゅうちょなく追加緩和だろうと何だろうと金融政策の調整を行う」と記者団に語った。異次元の金融緩和を発表した昨年の春同様、変わらぬ総裁の豪胆な発言だ。総裁は「首相からは特に指示はなかった」と言ったが、それはそれとして、首相が成長戦略に思わしくない兆候が表れている現状に〝危機感〟を持っていることは明らかだ。総裁は「来年10月からの消費増税を予定通り実施すべきだ」が持論だが、首相側近はこれに不快感を表している。「あまり余計なことを言うな」とくぎを刺したのだろう。首相側近が相次いで消費税再増税の先送りを表明しているからといって、首相が来年10月の再引き上げを断念したことにはならない。

 社会保障と税の一体改革の「3党合意」で決まった消費増税の引き上げの自民党の当事者は、当時党総裁で今度の党役員人事で幹事長に就任した谷垣禎一氏だ。その谷垣氏は「上げるリスクは乗り越えることは可能だが、上げなかった場合のリスクはかなり難しい」と、世界各国が織り込み済みの日本の消費増税をやらなかった場合の市場の反応を懸念して「消費税10%は基本路線だ」と語っている。仮に首相が消費増税の判断材料とする7~9月期のGDPが〝不調〟で消費増税が先送りとなった場合、暮れの来年度予算編成はどうなるのか。新たな景気対策を求める声も高まるだろう。不安だらけの今後である。

 アベノミクスの「生命維持装置」は株価だと言われている。東京株式市場は19日、1万6,321円17銭と約6年10カ月ぶりの高値、東京外国為替市場も約6年ぶりに1ドル=109円台をつけた。米経済の回復期待からのドルを買い、円を売る動きが優勢となったからだ。相変わらずの米国次第の相場で、日本経済のファンダメンタルズを好感したわけではない。急激な円安は逆に円安懸念を呼んでいる。春闘相場に限らず、金融緩和、法人税減税、労働規制の緩和、企業の女性活用の督促、公的年金資金の株式への資金配分見直しなど、アベノミクスは市場機能に対する政治介入が際立っている。首相の言葉を引用すれば、すべて成長戦略の推進力である。民間の活力を呼び起こす「小さな政府」どころか、現状は「大きな政府」である。高度経済成長期は製造業の大企業を頂点に中堅、中小企業がピラミッドを形成し、頂点の恩恵が幅広く行き渡る「トリクルダウン」が期待できたが、経済のグローバル化でこの構図は縮小した。大企業優遇が必ずしも社会に恩恵をもたらすとは言えなくなった。

 政治力が市場を動かしても企業の反応が続かなければ、真の経済の活性化はない。過剰な政治介入が民間の活力をそぐ可能性も高い。成熟社会が求めるのは財政をテコとしたハードではなく、ソフト面での施策の充実である。(おわり)
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