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2014-09-16 16:08

胸突き八丁に差し掛かったミャンマー

津守  滋  立命館アジア太平洋大学客員教授
 9月11日アジア開発銀行は、ミャンマーの潜在力について予測を発表した。今後15年間でこの国が順調に経済発展するためには、制度、インフラ、人材の面で800億ドルの投資が必要と計算している。そしてそれによって達成される最善のシナリオは、年平均成長率9.5%、2030年の一人当たりGDPは4,800ドルになるとする。

 2011年3月にミャンマーが長年の軍政より、「民政」に移管して以後、内政、対外関係両面で「激変」と表現できるぐらいの変貌を遂げた。軍政時代厳しい経済制裁を科していた欧米諸国をはじめ多くの諸国が、官民とも雪崩を打ってミャンマーに進出を試みている。日本政府も5,000億円近くあった焦げ付き債務をほぼ全額チャラにし、数百億円の新規円借款を供与している。アジ銀の指摘するように、制度、人材、インフラ面での投資が進み、前提条件が整えば、この「東南アジア最後のフロンティア」は、大きく発展するであろう。

 一方、政治、社会面で克服すべき多くの問題が残されている。まず英国植民地時代からの宿痾である少数民族問題については、過去1年政府側と少数民族側の話し合いにより、問題点が煮詰まりつつあるが、停戦(conflict settlement)から和平(conflict resolution)に至るまでの道筋はできていない。政府側がネ・ウイン時代以来一貫して拒否してきた連邦制(federalism)を原則認める用意を示すに至った。これは大きな一歩である。しかしその具体的内容については、簡単に合意が成立する可能性は少ない。いずれにしろ、筆者は一般に報じられているように最終決着が近いとは思わない。これまでも「合意間近」と何回も報じられたが、すべて空振りに終わっている。加えて今回も、9月に入り有力な少数民族KNU(カレン民主同盟)が少数民族側の受け皿NCCT(全国停戦調整チーム)より脱退を発表しているし、このチームにはもともと30,000人の最強の兵士を擁しているワ軍を含め45,000人の少数民族側兵士が含まれていない。政府の交渉相手(NCCT)が、広く少数民族を代表する組織でないとすれば、すべての少数民族との間の真の「和平」達成まで、まだまだ時間がかかろう。

 このほか憲法改正問題や軍の政治への介入問題、ロヒンギャ問題を含めた宗派間対立の問題、クローニー経済の問題などが、国内の不安定要因としてテイン・セイン政権の前に立ちはだかっている。仮に来年の選挙でアウン・サン・スー・チーの政党NLD(国民民主連盟)が勝利した場合、改正されない憲法上大統領資格のない同人の取り扱いはどうなるのか、ミャンマーの先行きには、多くの問題で不透明感が漂っている。
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