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2014-09-01 11:29

(連載1)辺野古移設強行と沖縄知事選

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 普天間飛行場を名護市辺野古に移設する作業は、海上保安庁船艇の厳重な警戒の下で本格化している。去る7月20日未明、移設反対派の虚を突くように始まった移設作業は、米海兵隊基地キャンプ・シュワブへの資材搬入からはや1カ月半だ。移設予定地を囲むように浮標(ブイ)と浮具(フロート)が敷設され、その内側で海底ボーリング調査が急ピッチで進んでいる。さらに移設予定地の沖合に張り出すように立ち入り禁止区域が設定された。政府は海底ボーリング調査を早期に終え、来年3月までに本格的な埋め立て作業に着手する予定だ。現場水域の空撮写真を見ると、海上保安庁の船艇が物々しく警戒している様子が分かる。尖閣諸島海域でわが国の領海に無法に接近、侵入を繰り返す中国公船を監視する海上保安庁が、船艇と要員の一部を辺野古に派遣、警戒に当たっているのである。沖縄県民にとっては予想もしなかった事態だが、安倍政権が辺野古移設にかけた意思がそれだけ強いということだろう。

 自衛隊の島嶼(とうしょ)防衛力強化計画は沖縄、奄美地域で着々と進んでいる。辺野古移設と無縁とは言い難い。地元紙の世論調査によると、「辺野古移設に反対」が7割をはるかに超えるが、これも沖縄戦とその後の過酷な体験を持つ県民が、本能的に感じ取るものがあるからだ。近年、県民の意識にも新たな変化が表れている。国と県の意識の落差が、辺野古移設の問題に表れているような気がしてならない。辺野古崎を囲むように張り巡らされた立ち入り禁止区域は反対派の活動を封じるためだが、テレビドラマで一躍茶の間の話題になった「海猿」こと、海上保安官が乗った多数の黒いゴムボートが忙しく動き回っている光景は、のどかなサンゴの海には異様だ。移設反対の住民が乗った小型の漁船やカヌーが近づこうものなら、直ちにゴムボートが急行、排除する。反対派の抗議に荒々しい言葉も跳ね返ってくる。連行されて事情聴取されることも珍しくない。反対派の抗議行動は連日続くが、厳重な警備態勢の前に手も足も出ない。10年前の2004年、政府は抗議行動に遭い、杭1本も打てずボーリング作業を中止した。今回海上保安庁が厳戒態勢で臨んだのは、10年前の二の舞いを見たくなかったからだ。

 7月23日、キャンプ・シュワブのゲート前の国道329号を挟む両側の歩道を3600人もの住民が埋め尽くして辺野古移設に反対する県民集会が開かれた。都市部ではない、人里離れた自然林に覆われた山原(やんばる)で開かれた集会に、移設反対の気持ちが込められていたのではないか。私は地元紙、琉球新報が動画で中継した集会を何度もパソコンで見た。この辺りを数えきれないくらい走ったことを思い出しながら。辺野古の砂浜もよく歩いたものだ。動画は不思議な懐かしさがこもっていた。集会を見ていて気が付いたのは、家族ぐるみ、お年寄り、若者の姿など、労組主体の集会とは全く違う光景である。街宣車の上でマイクを手に「辺野古埋め立ては反対だ」の言葉に拍手、指笛が呼応する。炎天下に馳せ参じた市民らの不安、焦燥がそうさせるのだろう。「移設作業が進む辺野古崎周囲の水域では、この日も沖には巡視船艇、近場の水域には海上保安官が乗った黒いゴムボートが多数浮かび、小船やカヌーの抗議行動は有無も言わせない強制排除だった」と集会の司会者は報告していた。今年1月、移設反対で名護市長選で再選された稲嶺進市長は「69年前に米軍が沖縄本島に上陸した時のようだ」と辺野古の海の様子を形容した。読谷、嘉手納海岸の前の海を埋め尽くした米軍艦船の光景を思い出した老人もいたという。 

 今回の移設反対運動が過去の反基地闘争と決定的に違うのは、移設反対運動が沖縄に対する「構造的差別」「人権問題」をキーワードとしていることだ。それを脇に置いて問題解決の道を見出すことは難しい。在日米軍基地を狭い沖縄に集中させたのは、ほかでもない国である。国土面積のわずか0・6%の沖縄に在日米軍基地の74%が集中する事実は、言い訳ができない現実だろう。国連人種差別撤廃委員会は2010年、米軍基地集中について「現代的な形の人種差別」と認定、差別監視のため沖縄の代表者と協議するよう勧告した。さらに同委は、先日公表した対日審査会合に関する最終見解で「沖縄の人々の権利保護を重点に置いた対策を取るよう日本政府に促した」(ジュネーブ共同)と沖縄に言及した。1月の名護市長選は、移設反対の現職が圧勝、再選された。にもかかわらず、政府は「日米合意」を盾に移設作業を強行している。「丁寧な説明で地元の理解を得る」約束はどこかへ行ってしまった。県民集会で「今日は党派、イデオロギーを超えて県民が集まりました」「安倍政権は沖縄の気持ちなど分かろうとしません」と女性代表の声が響いた。確かに沖縄の過酷な歴史を知り、学ぼうとする政治家が東京・永田町にいるだろうか。私は皆無に等しいと思っている。沖縄問題は政治的にはすっかり風化した。一方で、安全保障環境の厳しさを理由に抑止力を求める声は高まるばかりだ。それは政治に限らない。全国世論調査に表れる民意は「辺野古移設賛成」が多数だ。多数で沖縄の民意は「少数」として片づけられる現実を、沖縄県民がどう受け止めるか考えるべきではないか。(つづく)
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