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2014-08-27 11:26

鄧小平「文集」が示す、尖閣「棚上げ論」への幻想の愚かさ

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 今年の8月22日は、鄧小平の生誕110年記念であった。これを記念し、中国共産党は、同氏の1949~1974年の発言や文章を収集、編纂した「文集」を、国営の人民出版社から出版させた。その中には、鄧小平の尖閣に対する発言も収録されており、その一部が、本邦マスコミでも紹介されている(例えば、読売新聞8月23日付など)。尖閣についての、いわゆる「棚上げ論」は、さすがに日本国内でこれを支持する者は激減したが、一部の政治家、文化人、マスコミ関係者などには、いまだに「棚上げ論」に未練があるように見える。鄧小平の発言は、「棚上げ論」に日中友好の希望を託すことが、如何に無駄な幻想であるか、改めて教えてくれる。

 「文集」によれば、鄧小平は、1974年10月に、華僑たちとの会見で、尖閣について「我々は決して放棄せず、闘争は長期にわたる」「棚上げしても問題が存在しないことにはならない」と言っている。鄧小平は、「保釣(尖閣防衛)運動は、高くも低くもなる、長期的で、波のような運動だ」とも言っている。これは、鄧小平の有名な「韜光養晦」戦略、すなわち、能ある鷹は爪を隠す、あるいは、十分な力を蓄えるまでは目立たない姿勢に徹する、という外交戦略そのものである。韜光養晦戦略を、もっぱら周辺国に比較的穏健な態度をとる戦略と認識し、中国は韜光養晦路線を転換したのか否かと問う議論があるが、それはあまり意味がない。韜光養晦は、裏を返せば、十分な能力を蓄えた暁には、威圧的行動も辞さないと言うことである。

 実は、鄧小平自身、韜光養晦とセットで「有所作為」、すなわち、やるべき時にはやらねばならない、と言っている。そして、相手、地域、国際社会に警戒感を抱かせ過ぎたと感じた時には穏健な素振りを見せ、逆に、相手が弱みを見せれば巧みに衝いてくる、ということを試行錯誤的に繰り返すのが、中国の外交戦略の本質であると理解してよい。

 尖閣の「棚上げ論」は、1972年9月の日中国交正常化に際しての、田中角栄・周恩来会談で、初めて中国側が公式に言い出し、日本側はこれに合意していないとの立場である。1978年10月の日中平和友好条約交渉では、鄧小平は「われわれの世代では知恵が足りなくて解決できないかもしれないが、次の世代は、われわれよりももっと知恵があり、この問題を解決できるだろう。この問題は大局から見ることが必要だ」と言っている。しかし、1992年に領海法を制定して尖閣への領有権を明記したのは、他ならぬ鄧小平自身である。そして、領土問題で中国が譲歩したことが皆無であることを考えれば、「保釣運動は、高くも低くもなる、長期的で、波のような運動」というのが、中国の一貫した方針であると考える以外にあり得ない。そして、中国の軍事的能力は増す一方であるから、尖閣への圧力は、益々高まっていくものと覚悟すべきである。「棚上げ論」への幻想は、完全に一掃されなければならない。
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