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2014-08-26 06:48

石破が“鯉口”切れば、安倍長期政権は揺らぐ

杉浦 正章  政治評論家
 江戸城・松の廊下で石破内匠頭(たくみのかみ)が、にっくき安倍上野介(こうづけのすけ)に対して刀の鯉口をあわや切りそうになっている場面だ。止めに入る長老などはいないから、始末が悪い。元首相・森喜朗が適役だが、動かない。それにつけても首相・安倍晋三の幹事長・石破茂“いじめ”は目に余る。仮にも総選挙、参院選挙、都知事選挙を勝ち抜いた幹事長を、わざわざ安保担当相などという伴食大臣を作って就任を求める、などということは常軌を逸している。この露骨な「石破外し」は「安倍長期政権」への暗雲以外の何物でもない。かねてから石破がこんな人事を受けるわけがないと書いてきたが、世の評論家どもは見通しが悪い。20日くらい前から「結局受ける」などとテレビでしたり顔で公言して、政局の急所で大きく間違った。石破にしてみれば、この安保担当相などという人事ほど人を馬鹿にしたものは無い。政権成立以来、石破は健気にも「安倍さんが首相をやる以上支える」と明言して、陰日なたなく安倍に忠誠を尽くしてきた。ところが、政権には奸佞(かんねい)側近がつきもので、安倍にしょっちゅう石破の悪口を吹き込んだのだろう。安倍がしっかりしていなければ乗らないが、首相の座というのは魔物が潜んでいる。国民の目に陰険に映るのも知らないで、ナンバー2を切りたくなるのだ。安部は奸佞に乗ってしまって、「石破切り」へと動いたのだ。

 人間関係というのは会社でも同じだが、他人のあずかり知らぬところで、思わぬ伏線を抱えているものだ。その“遺恨試合”を石破は8月25日のTBSラジオ番組でぽろりと漏らした。第1次安倍政権末期のことだ。石破は「安倍さんは1回お辞めになった方がいい」と発言したというのだ。石破によると「自分が一番苦しいときにそんなことを言った人間には、そんなにいい感じを持っていないかも知れない。私は党と国のために言ったのだが」と説明している。少なくとも石破は安倍がこの発言を根に持っていると感じている。反りが合わない原因の一つであることは間違いない。両者とも集団的自衛権をめぐる意見の相違を際立たせているが、問題の根はそんなところにはない。安倍サイドが主張する個別法制は、誰がなっても避けられないことであり、石破の主張する国家安全基本法は、それにかぶせる性格を持ったものである。従って、対峙する性格を帯びたものでもなく、国会答弁などいくらでも調整可能だ。それを石破までが「集団的自衛権に関する国会答弁は首相と100%一致しなければ、国会がストップする」などと述べている。よほど「伴食大臣などにさせられてたまるか」という気持ちが強い事を物語っている。それだけではない。石破はラジオで開き直っている。幹事長に留任したいと明言したのだ。「統一地方選挙で勝てるようにすることが、私がやりたいことだ」と述べているのだ。

 これらの石破の姿勢が物語ることは、安倍に対して「鯉口」を切ってもいいんだぞということに他ならない。石破にしてみれば、幹事長の留任はない上に、唯一残った重要閣僚ポストである外相も岸田文男留任の線が濃厚になってきている。安倍に外堀を埋められて、石破は行き場がないのだろう。農水相などがあるが既に経験しており、役不足なのであろう。安倍も狭量である。このまま石破をなだめすかして重要ポジションにつないでおけば、来年の総裁選で再選は間違いないところなのに、奸佞側近のペースに踊らされている。わざわざ平地に波乱を起こす人事をする必要は無いのに、“お耳役”にあおられて一番悪い選択をしてしまいそうだ。問題は石破を野に放ったらどうなるかだ。馬鹿な石破側近が「役職がないと求心力がなくなる」などと言っているが、本当の石破を知らない。野党時代に政調会長を総裁・谷垣禎一に外されたときに、石破は地方を回って地方党員の多くから人気を博した。これが2年前の総裁選に大きなプラスとして作用して、地方党員票165票、国会議員票34票を獲得して、141票の安倍をリードして1位になったのだ。国会議員での決選投票でも89票を獲得し、108票の安倍の心胆を寒からしめた。

 石破はこうなることも予想してか総裁公選規定を地方票重視の制度に変更している。よく安倍サイドが黙っていたと思うが、まさにお手盛り総裁選制度だ。内容は決選投票に地方票を加算し、地方票を国会議員票と同数にするというもので、これを実施すれば来年の総裁選では安倍より石破の票数が上回りかねないとされている。石破を野に放てば、そうなる。いずれにしても安倍が翻心して、石破の功績にふさわしい人事をしない限り、党内の亀裂は深まる一方であり、長期政権の構図が揺らぐかも知れない。古くは佐藤政権時代に佐藤栄作と三木武夫の対決があったが、この対決は実力差がありすぎた。それよりも実力が伯仲した福田赳夫と大平正芳の対決の構図が似ている。大平は田中角栄の代理戦争を戦い、福田を一期で引きずり下ろした。福田は総裁選前「福田再選は天の声。全国津々浦々が福田支持」と豪語していたが、敗退後「天の声にも変な声がある」と名言を吐いたものだ。安部はその容貌にふさわしく、和の精神を持って党内を治めた方がよい。
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