国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-07-25 10:35

RIMPACへの中国艦船の招待は、大失敗

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 現在、6月26日から8月1日までの日程で、米海軍が主催する、環太平洋合同演習(RIMPAC)がハワイ沖で開催されている。RIMPACは、ほぼ隔年で行われているが、日本を含む、米国の環太平洋の同盟国や友邦の海軍が参加し、今回は22か国が参加している。今回の最大の目玉は、中国が初めて招待されたことである。その中国海軍の艦船が、情報収集目的で周辺海域を航行していたことが明らかとなり、問題となっている。米太平洋艦隊の担当者によれば、演習が行われている海域の周辺において、中国の艦船が通告無くして監視に当たっていることを確認したとのことである。米海軍は、これに対して、機密情報保護の措置をとり、ペンタゴンの当局者は、不快感を表明している。今回の中国艦船の行為は、明らかに背信行為であるが、中国としては「渡りに船」というべき機会が与えられたということであろう。

 RIMPACへの中国海軍の招待は、オバマ政権による、米中軍事交流による信頼醸成を目標とした措置である。しかし、中国を招待することには、米国内からも懸念が表明されていた。例えば、米国の有力な保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の中国専門家である、ディーン・チェン研究員は、報告書や論説で、中国のRIMPACへの招待を止めるよう、繰り返し主張していた。その重要な根拠の一つは、同盟国、友邦を中国の諜報活動の危険に晒すことになる、ということであった。中国艦船の今回の行為の最大の問題点は、まさにここにある。

 オバマ政権は、米中間の軍事交流により信頼醸成がなされ、米中間の緊張緩和に繋がると考えているが、楽天的に過ぎる。確かに、軍事交流には、お互いの手の内を見せ合うことにより信頼が醸成され、その結果過度の軍拡に走ることが抑えられ、ひいては軍縮に繋がるという効果が期待できるケースもあるが、それは、冷戦末期の米ソのように、双方がそういう共通認識を持ち、なおかつ軍事力がほぼ拮抗している場合に限られよう。しかし、現在の中国は、自らの能力を隠しつつ米軍の能力を探り、米軍の能力に出来るだけ追いつくことを大目標としているので、全く当てはまらない。軍事交流を通じた信頼醸成など、幻想と言って過言ではない。

 RIMPACへの中国の招待は、オバマ政権のそうした幻想が、同盟国、友邦にも大きなリスクを負わせたことになり、大失策であるという他ない。米国は、今回の件を重大な教訓として、米中の軍事交流への幻想を捨てるべきであり、次回のRIMPACには中国を招待しないことが求められる。そして、我が国は、演習に参加したアジア太平洋の友邦と共同で、懸念を表明してはどうかと思う。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム