国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2014-06-04 09:52

(連載2)拉致再調査 薄気味悪い北朝鮮

中村  仁  元全国紙記者
 逆に合意文書には、交渉をなかなか進ませないだろうと、解釈できるような仕掛けがいくつも仕込まれています。
・「拉致被害者、行方不明者、残留日本人、日本人配偶者などすべての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施する」。一見、誠意ある態度のようではあります。実際に調査を始めてみれば、対象があまりにも幅広く、時間がかかる。北にとって、調査終了を引き伸ばす口実に使える。
・「調査は一部の調査のみを優先するのではなく、すべての分野について、同時並行的に行う」。通常なら、中間報告をだし、日本側が関心を持つものを優先して、結果をだしていく形をとる。
・「日本人の生存者が発見される場合、帰国させる方向で去就の問題について協議し、必要な措置を講じる」。外交文書であるにせよ、もって回った言い方ですね。「帰国させる」とすればいいのに、「去就の問題を協議」とか「必要な措置を講じる」など、二重、三重の条件を要求してくる余地を残している。

 調査の対象者は800人を超えるそうです。北朝鮮のやり方をみると、都合の悪い情報、資料は廃棄するか、隠蔽するかしてきたでしょうから、過去にさかのぼって調査しなければならないでしょう。そこまでやるというのですから、評価したいけれども、途中でうやむやになる対象者が多数にのぼることは十分に予想されます。

 奇妙なのは、日本人生存者が複数、あるいは相当数、いることは間違いなく、北朝鮮も彼らの存在を現時点で把握し、監視しているのに、これから調査する(つまり探しだす)ような態度をとっていることです。確実に帰国できる日本人生存者が存在するからこそ、今回の合意にある種の自信を北側は持って臨んだのでしょう。まわりくどい話です。日本側から見返りに制裁解除を目一杯、引き出す外交戦術でしょう。

 新聞各紙の論調を見てみましょう。朝日は社説で「今度こそ真の救済を」、毎日は「機会を最大限を生かせ」と主張しています。読売は「北朝鮮は誠実に約束を果たせ」、産経は「全員の帰国だけが解決だ」、日経は「今度こそ真摯な拉致被害者の調査を」です。産経のいう「全員の帰国だけが解決だ」は、無理な要求でしょう。日経の「真摯な調査を」は、今回の合意の意味が、調査の結果を踏まえ、被害者の救済にあるのですから、この見出しはいかがなものでしょうか。全体としては、期待しつつ、北への警戒感を怠らないよう、制裁解除が甘くならないよう、強調しており、各紙とも珍しく、論調は一致していますね。北は自分を高く売りつける外交的駆け引きには、長けていますから、日本側も騒ぎすぎて、問題解決の条件をつり上げないよう注意すべきですね。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム