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2014-05-14 06:47

安保法制墾、集団的自衛権で極東安保即応型概念

杉浦 正章  政治評論家
 首相の諮問機関である安保法制懇は5月15日に報告書を首相・安倍晋三に提出するが、その最終内容が固まった。報告書は「安保政策の硬直化は、憲法論のゆえに国民の安全が害されることになりかねない」として、現行憲法解釈の盲点を鋭く指摘。極東安全保障環境の現実に即して、集団的自衛権の行使容認へ向けた解釈変更を安倍に求めている。安倍は記者会見で限定的な容認の方針を打ち出す。焦点は20日からの公明党説得に移行するが、公明党代表・山口那津男は既に連立離脱の可能性を否定しており、条件闘争的な色彩を徐々に帯びてゆくものとみられる。また裏舞台での調整工作も活発化しよう。報告書は(1)北朝鮮のミサイル開発や中国の国防費増大で安保環境が激変した、(2)それにもかかわらず憲法論の下で安保政策が硬直化するようでは、憲法論のゆえに国民の安全が害されることになる、(3)現行の憲法解釈で国民の生存を守り国家の存立を全うすることが出来るかの論証はなされてこなかった、(4)したがって、憲法解釈を必要最小限の自衛権の範囲で集団的自衛権の行使を含めるよう変更すべきだ、と提言している。基調としては、これまで安全保障問題に詳しくない内閣法制局の憲法解釈を戒め、歴代政権の事なかれ主義を批判するトーンが随所に見られる。また北が核ミサイルを完成させる寸前であり、中国が南シナ海での海洋覇権戦略を東シナ海にも波及させかねない、という危機的状況への認識が根底を貫いている。時代錯誤の絶対平和主義を否定して極東の安保環境即応型の概念を打ち出している。

 これを受けて安倍が提示する「基本的な方向性」は、【集団的自衛権】【集団安全保障】【グレーゾーン事態】と3例に別れている。【集団的自衛権】では、公海上で米艦船への攻撃に対する応戦、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃、朝鮮半島有事の際に避難する民間の邦人らを運ぶ米航空機や米艦船の護衛などが挙げられている。また国連加盟国が一致して制裁を加える【集団安全保障】は、他国部隊への「駆けつけ警護」などでの自衛隊の武器使用をみとめる内容である。そして【グレーゾーン事態】は離島に上陸した武装集団への対処などである。安倍はこの「基本的な方向性」を下に公明党を説得するよう自民党に指示する。いずれも攻撃的な色彩よりも専守防衛的な色彩が濃厚であり、一部マスコミや野党が流布する「地球の裏側まで米軍に付いていって戦争する国になる」との流言飛語とはほど遠い内容となっている。

 自民党は、公には公明党説得を副総裁・高村正彦、幹事長・石破茂らに委ねる方針だ。しかし実際には、裏舞台での調整工作が焦点となる。「悪代官と越後屋」の調整が続くことになろう。悪代官は前副総裁・大島理森、越後屋は国対委員長・漆原良夫で、かねてから自公の裏調整はこの二人と相場が決まっている。その大島は13日夜、BS日テレの「深層NEWS」で楽観的な発言をしている。「自公政権10数年いろいろ問題はあったが、日本に対する責任の共有が培われてきている。話し合えば道が開ける可能性がある」と明言した。さらに大島は与党内調整の焦点について「限定とはなんぞやが一番のポイントになる。もう一つは運用面でいかにぴしっとできるかだ」との見通しを述べている。大島の言わんとするところは、自衛隊の行動に一定の歯止めをかけることで、公明党を説得でき得るということだろう。漆原の感触がそうだということだ。これに対して公明党代表・山口那津男は「政権合意に書いていないテーマに政治的エネルギーが行くことを国民は期待していない」と述べているが、この発言は「国民」でなくて「創価学会婦人部」と言い換えるべきだろう。学会の言うがままになっている代表が「国民」を持ち出すのはおこがましい。

 筆者のみるところでは、焦点はグレーゾーン事態への対応となる公算が強い。安倍が「基本的な方向」になぜグレーゾーンを盛り込むかだ。グレーゾーン事態は本来個別的自衛権で対処できるものであり、集団的自衛権の行使とは関係が薄い。それにもかかわらず言及するのは、公明党が臨時国会での法改正に前向きであるからだ。山口は明らかに先延ばし戦略を重ねた上で、グレーゾーンの食い逃げを図る魂胆である。これに対して安倍はグレーゾーンに賛成させた上で、集団的自衛権の行使への誘い水とする構えだ。要するに、「食い逃げ」対相手を誘って投げる柔道の「釣込腰」の戦いだ。まさにチキンレースの様相だが、山口が「政策的な違いで連立離脱は到底考えられない」と述べていることが物語るのは、結局妥協しかないということだ。安倍がぶれない限り、妥協は成立する流れだ。成立しなければ見切り発車が妥当だ。
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