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2014-05-07 22:04

遅れている日本の海外汚職防止対策

山崎 正晴  危機管理コンサルタント
 2014年3月19日、米司法省は、総合商社丸紅が1億1800万ドル規模の発電所設備受注に関連して、インドネシア政府高官に賄賂を渡した容疑で、米海外腐敗行為防止法(FCPA)違反に問われていたが、同社が有罪を認め、8800万ドル(約91億円)の罰金支払いに合意したと発表した。FCPA違反による罰金は丸紅にとってこの3年で2度目となる。前回は、ナイジェリア政府高官に対する贈賄容疑で、米司法省との間で起訴猶予契約を締結して、5460万ドルの和解金を支払っている。不可解なのは、この事案で日本の関係当局に丸紅追求の動きが見られないことだ。我が国の「不正競争防止法」は、第18条で外国公務員に対する贈賄行為を明確に禁止している。米国FCPAに違反する行為は、日本の不正競争防止法にも抵触する疑いが濃厚である。たとえ時効の問題があったとしても、OECDの規定により、贈賄企業には貿易保険や公的融資の適用が一定期間停止されることになっている。

 1997年12月、OECDは、贈賄が円滑な経済発展を阻害し、国際取引における競争条件を歪めていることを考慮し、外国公務員への贈賄を抑止及び防止する目的で、「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」を策定した。それを受けて、我が国では1998年に不正競争防止法を改正し、外国公務員等に対する不正の利益の供与等に関し、違反者には懲役もしくは罰金を科すこととなった。その後、OECDは、各締約国における贈賄行為取り締まりの同等性を確保するために、各国の取り締まり状況の審査を開始し、2014年2月に9回目の審査結果報告書が発表された。そこでは、国ごとの贈賄行為取り締まり実施状況を、(1)積極的に実施(Active Enforcement)(2)普通程度に実施(Moderate Enforcement)(3)実施しているが不十分(Limited Enforcement)(4)ほとんどまたは全く実施していない(Little or No Enforcement)」の4段階にランク付けして評価している。

 評価結果を見ると、取り締まりを(1)積極的に実施している国は、米国、ドイツ、英国、スイスの4ヶ国、(2)普通程度に実施している国は、イタリア、オーストラリア、オーストリア、フィンランド、(3)実施しているが不十分な国は、フランス、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ハンガリー、南ア、アルゼンチン、ポルトガル、ブルガリア。肝心の日本はどこかというと、(4)ほとんどまたは全く実施していない国の中にいる。汚職が深刻化しているといわれるロシア、メキシコ、ブラジルなどと同じカテゴリーだ。報告書によれば、日本が(4)のカテゴリーに含まれている理由は以下の通りだ。(イ)2012年中に捜査が完了した、もしくは継続中の事案は1件もない。(ロ)日本は国連腐敗防止条約(2003年10月採択)を批准しておらず、現行法上、国に贈賄による不当利得を没収する権利が与えられていない。(ハ)海外での贈賄行為の捜査に十分な人材が割かれていない。(ニ)海外での贈賄行為に対する罰則が軽すぎる。(ホ)Facilitation Payment (役所などでの手続を円滑化するための少額の支払い)が法律で禁止されていない。(ヘ)企業の間で、贈賄禁止についての認知度が低い。

 OECDによる今回の評価については様々な意見もあろうかと思う。しかし、国際社会、特に発展途上国における社会正義の実現のために、多くの国が合意して成立した「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」の履行において、日本が、国際競争力の面で、日本より力の弱い多くの国々の後塵を拝していることを恥として、公正な取引慣行実現のために、官民共に一層の努力をすべきことに異論の余地はないだろう。
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