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2014-04-02 21:43

リベラルな国際秩序に向けたソフトパワー外交のあり方

渡辺  靖  慶應義塾大学教授
 先月、大和日英基金(ロンドン)が主催するソフトパワーに関する講演会ならびセミナーに参加する機会を得た。有力国の大使等とも広く意見交換できた点は誠に有益だったが、そこでは日中・日韓に横たわる個別案件についてよりも、むしろ国際秩序そのものの行方に対する危惧を多く耳にした。もちろん、その直接的背景には、緊迫の度合いを増していたクリミア情勢があった。欧米諸国にとって軍事制裁という選択肢はコストが高すぎる。経済制裁は長期的には一定の効果があるかもしれないが、冷戦時代とは異なり、グローバルな相互依存が進んだ今日、少なくとも喫緊の解決策にはなりそうもない。つまりハードパワーには限界があるということだ。そうなると、例えば、ロシアへの国際世論の圧力を高める、あるいはロシアをG8から閉め出すといった、ロシアの魅力・信頼性・正統性、つまりソフトパワーを削ぐ選択肢しか残らないが、それにしても、プーチン大統領が全く聞く耳を持たなければ、やはり限界がある。同じような状況が中国によって東シナ海や南シナ海において作り出されているのではないか。参加者からはそうした危惧が多く聞かれた。「責任あるステークホルダー」としての台頭を期待していた中国やロシアなどの新興国が、むしろ現実には、「力による現状変更」を牽引していること、すなわち、第二次世界大戦から冷戦を経て形成された、「法の支配」に基づくリベラルな国際秩序に対する無責任なゲーム・チェンジャーになっていることへの危惧である。しかも、その二国は国連安保理の常任理事国のメンバーでもある。

 かたや、リベラルな国際秩序の形成を牽引してきた米国は、内政的な諸事情(財政難、厭戦ムード、党派対立など)に加えて新興国の台頭もあり、オバマ政権では国際協調路線(=負担の分担)を基調としている。反オバマ色を強めている共和党にしても、リバタリアン的な見地から孤立主義に訴える勢力がいる一方で、ネオコン的な見地からオバマ大統領の「弱腰」を批判する勢力もおり、党内は混迷状態にある。日本からすれば、「リバランス」を掲げている割にオバマ政権のアジアへのコミットメントは脆弱に映る。尖閣諸島の領有権が日本にあると言明しないのは中国への配慮だとしても、同盟国としては弱腰に映る。防空識別圏(ADIZ)をめぐる対応についても然りだ。その一方で、靖国参拝への「失望」からイルカ漁への「反対」まで、いくら「トモダチ」への忠告だとしても、表明の仕方が「あんまり」だという不満も少なくない。

 韓国についても「いつまで謝罪し続ければ良いのか」とゴール・ポストがたえず変わり続けていることへの苛立ち、いわゆる「韓国疲れ」のムードが蔓延しており、なかには「そのうち関東大震災の朝鮮人虐殺まで持ち出すのでは」という声さえ聞かれる。加えて、中国と韓国による反日「ディスカウント・ジャパン」キャンペーンや「告げ口」外交が世界各地で展開されていると聞けば、一部メディアで繰り広げられる「嫌韓・嫌中」が過激で危険な言説だと分かっていても、普通の市民感覚からすれば、異を唱えることはますます難しくなっている。北朝鮮はさらに格上の難しさを有する国であることは言うまでもない。

 こうした閉塞状況を打開するためにも、今月予定されている安倍総理とオバマ大統領の会談では、リベラルな国際秩序を守り抜く決意、そのための日米相互のより強いコミットメントを表明して欲しいと願う。中国や韓国にとって米国は依然として巨大な存在であり、その米国と結束した日本は大きなプレゼンスと交渉力を有することができる。もちろん、米国との結束はそれ自体が目的ではない。「法の支配」に基づくリベラルな国際秩序のなかに生きることが日本にとって最善の国益であり、そのための戦略として米国との結束が有益だからである。米国と結束しながら、そして国際社会を味方につけながら、台頭する新興国をリベラルな国際秩序へと誘引すること、その秩序に加わるほうが力によって変更を企てるよりも長期的に遥かに利があることを示してゆくことが肝要である。英国では、米国が唯一の同盟国である日本の事情を十分に理解しつつも、まさにこの観点から、かつての同盟国である英国と日本の関係強化を訴える英国側の声も数多く耳にした。まさに同感である。そして、そうした味方を増やしてゆくことが、ソフトパワー外交の急務であり要諦であろう。
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