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2014-04-01 06:21

地球温暖化の“地獄”は原発しか救えない

杉浦 正章  政治評論家
 もともと不可能な「原発ゼロ」論議の破たんが現実のものとして突きつけられた。3月31日公表の国連気候変動政府間パネル(IPCC)の報告書がそれを如実に物語っている。このまま地球温暖化が続けば、地球が「地獄の星」と化す方向が明白になったからだ。化石燃料をどんどん燃やしている日本は、大きく方向を切り替えて、温暖化阻止に向けて先頭を走るべき時だ。喫緊の対応が求められている。温暖化対策に現在対応可能なクリーン・エネルギーは、原子力しかない。遅々として進まぬ再稼働に政治決断で弾みをつけるときが到来している。再稼働はもちろん、新設も不可避の流れだ。温暖化によって何が起こるか。報告書によると、世界の平均気温は産業革命以降、近年までに0.6度余り上昇している。今後、気温が2度上昇した場合、異常気象による被害などで、年間に最大で世界各国のGDP(国内総生産)の総額の2%程度が失われる。気温が3度以上上昇した状態が続くと、北極圏の島グリーンランドで氷のとけるスピードが加速し、大規模な海面上昇が起きると予測される。さらに温暖化は、食糧の確保を脅かすなどして、貧困層を拡大させ、紛争の危険性を間接的に高めるおそれがあると警告している。

 報告書に民間学者などの予想を加えると、具体的な“地獄”の様相が鮮明になる。まず、 地球温暖化が続けば、今世紀末までにアジアを中心に数億人の移住が必要になる。水位上昇により住む土地を奪われた民族の移住は当然他の民族との摩擦を起こし、戦争が発生しやすくなる。温暖化は、蚊に媒介される感染症であるマラリア、デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎などの感性症の地域を広げ、日本などにも襲いかかる。既に米国西部などで山火事が増加しているが、この傾向は世界的な広がりを見せ、しょっちゅうどこかで森林が燃える状況となる。熱中症などによる死者は今後数十年にわたって増え続ける。米コロンビア大学の研究チームは、ニューヨーク・マンハッタンの1980年代の気温と熱中症による死者の数を調べ、それを基に今後の増加率を予測している。それによると、熱中症による2020年代の死者は、1980年代に比べて約20%増える見通しだ。何よりも致命的なのは海面の上昇だ。4度の平均気温上昇によりグリーンランドや西南極氷床が完全に融解した場合、それぞれ7mおよび5mの海面上昇を起こすと計算されている。これが何を物語るかと言えば、津波の頻発だ。3.11のような大地震でなくても、小規模な地震で、大津波が発生する。高潮などは日常的に発生する。報告書は、世界の平均気温の上昇が今世紀末に4度を超えるなら、後戻りできない環境の激変を起こしかねないと警鐘を鳴らした。

 まさに地獄絵の様相だ。これに対して人類は有効な対策があるのか。それには原因を根絶するしかない。なぜ温暖化が発生するかと言えば、全ては化石燃料を燃やすからだ。化石燃料消費によって排出するCO2だけでも、年間318億トン(2006~2010年平均)に上り、この量は増加し続けている。CO2の約3分の2は吸収されず、大気中にたまり続けていて、これが温暖化を引き起こす原因になっているのだ。これを食い止めるのは、CO2を出さない原子力か再生可能エネルギーしかない。将来的には再生可能エネルギーが実用化すれば最良であるが、実用化は遅遅として進まず、日本の場合まだ全体のエネルギーに占める割合は1.6%だ。逆に再生可能エネルギーが電気料金の引き上げを招いて、社会のブレーキとなっている。こうした中で過去半世紀、原子力発電は危険すぎると訴えてきた環境学者にも変化が生じている。気候変動を専門とする著名研究者らが昨年、地球温暖化を食い止めるため、より安全な原子力発電システムの開発を推進することを世界の指導者に求める公開書簡を発表した。

 気候およびエネルギー科学者のジェームズ・ハンセンら4人だ。「原子力を利用しなければ、石油や石炭などの化石燃料を燃やすことによる二酸化炭素排出量増加の現状を覆すことはできない」と主張。「原子力発電に重要な役割を担わせない限り、気候安定化に向けた確実な道は存在しない」と指摘している。日本でもようやくこれに気付いて自民党の元官房長官・町村信孝が「東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、地球温暖化の議論が少なくなったが、日本は、これだけ経済が発展し、相当な量の温室効果ガスを排出しているので、地球温暖化対策のためにも原発の再稼働は必要だ」と発言している。この流れに原発再稼働反対の朝日新聞がどう出るか注目するところだ。1月の段階の社説では「温暖化防止、子孫につけを残すまい」と見出しを取ったから、変化かと思ったが「放射性廃棄物という別の形で子孫につけを回す原発に期待をかけるのではなく、真に持続可能な社会への転換によって大幅削減を図りたい」と相変わらず原発反対。だからといって具体論は全然示せず「持続可能な社会への転換」などという意味不明のごまかしで逃げている。原発反対派はもっと理論武装すべきであると忠告しておくが、かれらがIPCC報告によって追い詰められたことは間違いない。
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