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2013-11-25 06:51

猪瀨は早期辞任で五輪への影響を避けよ

杉浦正章  政治評論家
 先に猪瀬直樹を都知事に選出した東京都民のガバナビリティ(被統治能力)欠如を指摘したばかりだが、その猪瀨の驚くべき有権者への背信行為が明らかになった。5千万円もの巨額な資金をめぐる疑惑である。検察は徳洲会選挙違反事件の思わぬ副産物への対応を迫られることとなるが、刑事事件化するしないは別にして、少なくとも東京都知事が道義的な責任を問われる事態であることは確実だ。この事態を俯瞰図でみると、紛れもなく東京オリンピックの品格が絡む。オリンピック憲章は高い道徳性を求めており、招致する都市のトップの顔が泥まみれでは、スポーツの祭典に全くふさわしくない。猪瀨は自らの責任の重大性を自覚して、潔く辞職して世紀の祭典の成功に結びつけるべきだ。

 22日の記者会見をつぶさに分析すれば、うそで塗り固められていることが判然とする。第1のうそは「申し出を断るわけにはいかなかった」とあたかも医療法人「徳洲会」の前理事長・徳田虎雄からの申し出があったから受け取ったような口ぶりだ。しかし、あらゆる情報が猪瀨側から「1億円」の要請があり、徳田が次男の衆院議員・徳田毅に「とりあえず5000万」と指示したことを裏付けている。いくら徳田でも要請なしに多額の金を渡すはずはない。ここでクローズアップするのが日本維新の会共同代表・石原慎太郎との“絡み”だ。石原は自民党青嵐会時代から徳田と親しく交わっており、徳田自身の衆院選選挙応援にもたびたび鹿児島を訪れ、知事交際費を使って食事をするなどひんしゅくをかった仲だ。

 昨年秋、首相になれると大誤算して知事を突如猪瀨に譲る判断をしたが、その石原が有力な資金源として徳田を猪瀨に“引き継いだ”ことは確定的だ。大病院の建設許認可は東京都が握っており、徳田は後々“便利”と算段しても不思議はない。猪瀨の第2のうそは午後1時の記者会見で「選挙費用に使った場合は収支報告に書くつもりだった」と漏らした点だ。これは明らかに政治資金と意識して受領したことを物語るものであろう。ところが3時の記者会見では一転して「個人の借り入れ」をしつこいほど繰り返した。これが何を物語るかと言えば、弁護士など政治資金問題の専門家の助言が入ったことを意味する。「絶対に公選法で義務付けられている資金ではないことを強調する必要がある。個人の借入金とせよ」との“知恵”をつけられたに違いない。もし起訴された場合には、明らかに「借入金」で押し通せると踏んでの法律家の判断である。

 第3のうそはなぜ徳洲会に強制捜査の入った9月の返済になったかということだ。猪瀨ははっきり言って強制捜査を「やばい。まずい」と感じたに違いない。「こっちもばれる」と思ったのだろう。慌てて返済した理由について「1月に返すつもりだったが、妻の病気などいろいろあって9月になった」と死んだ妻を言い訳の理由にした。この言い訳は東京都民向けに「奥様が亡くなられてお可哀想」などという同情を買おうという魂胆がありありだが、言い訳になっていない。こじつけそのものである。

 こうしてうそで塗り固めた記者会見となった。新聞もだまされてはいない。全社が社説で強く批判している。 朝日「これでは納得できぬ」、読売「個人の借り入れは通らない」、毎日「借入金は通用しない」といった具合だ。問題は検察が立件するかどうかだが、小沢一郎の政治献金問題で敗北して以来、どうもびびっている。これだけ状況証拠がそろっていても踏み切らない可能性がある。ここは何が何でも社会正義を貫かなければならないときであり、立件に踏み切るべきであろう。都民からの告発も起きるだろうし、やらなければ小沢のケースと同じように検察審査会が乗り出すケースも考えられる。検察審査会の議決で強制起訴となる可能性も否定出来ない。一方都議会は無視するわけには行くまい。ちょうどオリンピック予算の審議も始まる方向であり、29日からの定例都議会の最大の焦点となろう。知事の進退に関して議会が出来るのは知事への辞職勧告決議か不信任決議だ。辞職勧告は法的な拘束力はないが、不信任決議が可決されれば辞職か都議会解散かだ。

 最大の問題はオリンピックへの精神的な影響である。今後マスコミの追及の矛先は拡大しこそすれ、治まることはない。したがってこの問題は国際的な注目を浴びることになる。オリンピック憲章はその精神の根本原則として「 オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である」と高らかにうたっている。ところが猪瀨の行為は教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則のいずれにも背馳(はいち)するのである。限りなくクロに近い、つまり政治資金規正法違反に近い知事がオリンピックの顔では、その精神から言っても妥当性に欠ける。猪瀨の居座りはやがては“国辱”的な事態へと発展する可能性があるのだ。したがって猪瀨は、追い込まれて醜態をさらして東京オリンピックのイメージを壊す前に、潔く辞職して、問題の早期決着を図るべきである。子供の教育のためにならない。
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