国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-10-23 13:33

(連載)トルコの中国製ミサイル導入は問題である(1)

河村 洋  外交評論家
トルコが中国からミサイル防衛システムの導入を決定したというニュースはNATO同盟諸国に重大な懸念を呼び起こした。中国が数多くの競争相手を退けたのはなぜだろうか?何はともあれトルコがNATOに留まりEUとの関係も維持したいのなら、この取り決めがもたらす政治的意味合いは深刻である。問題は中国によるNATO防空システムへの浸透にとどまらない。トルコが商談を進めている相手はCPMIEC(中国精密機械進出口総公司)という国営企業で、今年の2月にはイラン、北朝鮮、シリアに対する核不拡散の規定に違反したとしてアメリカ政府より制裁を受けている。CPMIECは2003年にもイランへの兵器輸出でアメリカの制裁を受けている。言い換えればトルコはそのような無法企業に利潤を挙げさせて国際的な核不拡散体制の行動規範に従わないことになる。

なぜ レセップ・タイイプ・エルドアン首相はそのような悪名高い企業と問題のある商取引を進めるのか?エルドアン政権は欧米からの自主独立外交政策を追求している。しかし、これだけがアメリカとヨーロッパの企業を差し置いて中国のミサイル・システムを選択した理由ではない。中国はトルコが求める技術移転に欧米よりも積極的であることも関連していよう。中国の著作権保護が放漫で、欧米、ロシア、イスラエルから盗用した技術を活用していることにも注意を喚起したい。技術移転の規範が緩やかということはテロリストが最先端技術を入手しかねないという懸念につながり、また、ヒズボラのように主権国家以上に武装されたテロ組織があることを忘れてはならない。エルドアン政権はこのようにテロリスト対策の観点からも危険とみなすべき企業に利潤を挙げさせているのである。

技術移転の他にも、トルコはSCO(上海協力機構)との関係深化を通じて新シルクロード地域での経済的な機会を模索している。それを象徴するのが2010年にトルコのレセップ・タイイプ・エルドアン首相と中国の温家宝首相(当時)との間で交わされた二国間貿易促進の合意である。習近平国家主席は就任前の2012年にこの合意を再確認した。フリーランス研究者のアン・ベス・カイム氏とタフツ大学フレッチャー外交法律学院のスルマーン・カーン助教授は2月6日付けの『ザ・ニュー・ターキー』誌上の論説で「トルコと中国がアメリカの優位への懸念を共有していることは、トルコ国民のかなり多くがアメリカを抑圧的な超大国だと見なしていることからもわかる」と指摘する。これは非常に警戒すべきことである。

しかし、本来はユーラシアでのトルコの立場は複雑である。第一に、NATO加盟国というトルコの立場はSCOへのフル加盟とは相容れない。第二に、ウイグル問題もトルコが中国と真のパートナーとなるうえで障害となる。日本在住のあるウイグル活動家はミサイル取引が中国の圧政体制を利するとして失望の意を漏らしたが、欧米諸国と同様にトルコも世界ウイグル会議の指導者数名を受け入れている。欧米からの自主独立だけのために親中外交政策をとれば、テュルク系の民族的なつながりと緊密な関連があるトルコのアフロ・ユーラシア政策は頓挫してしまう。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム