国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-10-01 07:05

再稼働後は「原発新設・リプレース」に転換せよ

杉浦 正章  政治
 エキセントリックな原発再稼働阻止の越権行為を繰り返してきた新潟県知事・泉田裕彦が、なぜか一変して、常識的な「真人間」に戻ったように見える。東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働申請を認め、事態は来年春の再稼働に向けて大きく動き出した。既に現在停止中の50基中の14基が原子力規制委員会に再稼働の申請をしており、冬には再稼働が開始される。しかし、大きな方向としては、世界一厳しい安全規制によって、50基の原発は20~30基に減少せざるを得ない見通しが強まっている。ところが、世界の潮流は圧倒的に原発依存の流れであり、日本は他国の原発を製造しているだけでは、激しい経済競争に立ち後れる上に、アベノミクスも先細りにならざるを得ない。現在のところは、再稼働達成が最重要課題だが、中期的には、筆者がかねてから主張しているように、安倍政権は時期を見て原発新設または廃炉原発の新型へのリプレースを断行する方針を打ち出すしかない。世界の原発市場は、アジアを中心に今後20年間で100基を越える新設が予定されている。1基5000億円かかるから、100基で50兆円の大市場だ。既に首相・安倍晋三は成長戦力の柱と位置づけ、昨年前半はトップセールスを展開し、大きな成果を上げてきた。

 しかし、ロシア、韓国、中国などがこの市場を虎視眈々と狙って既に動き出している。問題はその製品の質である。原発業界では「チャイナ・韓国リスク」がささやかれている。それはそうだろう。「墜落穴埋め新幹線事故」の例に見られるように、中国はまだまだ大型精密工業の段階にない。韓国も売り出しに躍起だが、原発だけは低価格で競争すべきものではない。製品も、質も、最低の状況にあり、最近では偽造部品による建設が発覚して、国内23基中9基が停止を余儀なくされる事態に至っている。国内原発すら不良品では、原発輸出などおこがましいのである。「チャイナ・韓国リスク」の原発で東南アジアが席巻されたら、事故が起きれば偏西風で日本は影響をもろにかぶる。そもそも輸出と言っても、原子炉の中核中の中核である圧力容器は、事実上日本しか作る能力がなく、世界の原発市場の8割を制している。日本製鋼所が一手に引きうけているのであり、各国とも日本製圧力容器を使って輸出しようとしているのである。

 翻って日本のエネルギー事情を見れば、国民は原発停止による電気料金値上げで青息吐息だ。化石燃料購入のために流出する国富は3.8兆円に達しており、国民1人あたり3万円に相当する。稼働しなければさらなる料金引き上げになり、製品コストは上昇する一方だ。コストが上昇すれば、安倍がいくら法人税を引き下げて、給与を引き上げようとしても、コストに吸収されてしまい、給与には反映しない構図だ。アベノミクスを成功させるためには、国富流出を防ぎ、同時にコストを下げる原発を早期に再稼働させるしかないのだ。このままでは消費税8兆円の半分の国富がアラブの石油成金諸国に吸い取られてしまうだけなのだ。再稼働で浮かび上がる構図は、輸出促進との関連が極めて重要なテーマとなって来ることである。輸出は世界一厳しい規制基準で、世界最高の技術が売りになるのであろう。しかし、世界に安全で最高品質の原発を売り続け、日本の原子力発電が旧態依然のままということは、中長期的視野に立てば成り立つことではない。20~30基が稼働しても、耐用年数40年の規制でやがては死を待つばかりの原発となってしまうのだ。アジア諸国が日本製原発で隆盛し、日本の原発だけが衰退の一途をたどる構図は洒落にもならない。日本のエネルギー政策の根幹が成り立たないばかりか、アベノミクスの根底が崩れてしまうのだ。これは、政治がリーダーシップを発揮して、原発アレルギーの度が“病的”にまで極まって思考停止にある世論を説得、誘導して方針の転換を図るしかない。

 太陽光や風力発電など自然エネルギーが理想にしても、コストや稼働率から言って原発の比ではない。ベストミックスは一つの流れだが、全エネルギーに占める自然エネルギーは現在1.4%に過ぎず、これが原発に取って代わる展望は現段階でも、予見しうる将来でも、存在しない。こうして原発再稼働の先を見据えれば、好むと好まざるとにかかわらず、安倍政権は、新設・リプレースの選択しかないのだ。だいいち規制基準に合格した古い原発が稼働を許されるなら、あえて反対派の好きな言葉を使えば「新安全神話」を達成しうる新型原発はなおさら稼働が許されなくてはおかしい。安倍も、かつては新設を語っている。昨年大晦日のどさくさで大きくは報道されなかったが、安倍は12月30日、TBS番組で今後の原発政策をめぐり「新たにつくっていく原発は、事故を起こした東京電力福島第1原発とは全然違う。国民的理解を得ながら新規につくっていくということになる」と述べ、新規の原発建設を容認する姿勢を示しているのだ。今は発言を控えているが、本音はそこにあるのだろう。技術力はどんどん進歩する。しかし、将来に展望がない産業と若者が見限れば、世界に冠たる原子力製造技術の継承も人材の継続も続かなくなる。汚染水の問題を早急に処理して、再稼働から新設・リプレースへの流れを明示してゆくべきである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム