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2013-08-19 10:36

(連載)エジプト危機は克服できるか(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 親米的なムバラク政権が倒れ、独自の外交方針を模索するモルシ政権ができて以来、米国とエジプトの経済関係は停滞してきました。これと入れ違いに、中国やロシアが急激にエジプトへ経済的に進出しています。やはり2011年の「アラブの春」のなか、エジプトの隣国リビアでカダフィ体制が崩壊しました。従来、中ロはカダフィと友好関係にあり、リビアでの油田開発などで存在感を保っていましたが、政変後はそれがあだとなり、新体制とは必ずしも良好な関係にありません。すなわち、リビアでの旗色が悪くなったことは、中ロをしてエジプト進出を強めさせる契機になったとみられるのであり、そうだとするとエジプトへの関与を弱めることは、西側諸国にとって、北アフリカ一帯の勢力圏の縮小に繋がりかねません。

 以上に鑑みれば、欧米諸国が暫定政府によるモルシ派の強制排除に憂慮を示し、慎重な対応を求めるため、継続的に関与していることは不思議ではありません。とはいえ、死者を出す衝突が頻発していることから、米国やEUによる仲介が効果をあげているとは言い難い状況です。暫定政府からみれば、取れる選択肢は大きく二つあるとみられます。第一に、一部であってもムスリム同胞団を暫定政府に取り込み、挙国一致体制を演出することです。しかし、もう一方の当事者ムスリム同胞団、特に長年抑圧されてきた貧困層からなる末端の支持者たちにとって、これは受け入れにくいところです。今さら暫定政府に参加しても、欧米諸国に近い軍やリベラル派の風下に置かれるであろうことは、容易に想像されます。

 ただし、このまま対立を続ければ、いずれ本格的な衝突が避けられなくなることも確かです。その意味で、ムスリム同胞団の幹部たちが「暫定政府への参加」という最低限の利益を確保する行動に踏み切れるかが、最悪の事態を回避する大きなポイントになるでしょう。とはいえ、これも楽観はできません。いかに幹部といえど、激昂した支持者らを抑えることは容易でなく、下手をすれば「裏切り者」にされかねません。のみならず、クーデタの直後に主だった幹部たちは軍によって拘束され、その統率力は大幅に低下しているとみた方がいいでしょう。よって、これは期待しにくいところです。

 第二に、抗議デモの排除に象徴されるように、最終的にムスリム同胞団との衝突に至り、これを「テロ組織」に位置づけることで、自らの正当性をアピールすることです。もちろん、これはまさに内乱を招きかねない選択であり、リスクが高いものです。また、軍部はともかく、リベラル派やその他の暫定政府に協力している勢力が、これに同調するかは不透明です。第一、第二の選択肢のいずれにもリスクが多いことから、実際には暫定政府は双方の戦術を織り交ぜながら、ムスリム同胞団に迫るものと考えられます。しかし、アル・カイダなど国際テロ組織が、民主的な方法でイスラーム的な支配の確立が困難であることを強調し、武装蜂起を説くメッセージを発していることもあり、追い詰められ、組織としての求心力を低下させたムスリム同胞団の末端支持者が暴発する危険性についても楽観はできず、エジプトは今、内乱の縁にあるといえるでしょう。(おわり)
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