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2013-08-01 06:51

消費増税反対の浜田宏一の旗色悪し

杉浦 正章  政治評論家
 消費増税の最終決断をめぐって、首相・安倍晋三の敬愛する側近学者で内閣官房参与の浜田宏一の旗色が悪くなってきたようだ。浜田はアベノミクスの理論的支柱だが、消費増税が「アベノミクスを失敗させかねない」として、法案通りの実施に強い懸念を表明し続けている。安倍もこれに乗って慎重姿勢を崩さない。その根拠は法案の「景気条項」が時の首相による「停止」判断を可能としているためだ。しかし、根拠となる経済指標は増税判断を可能とするものばかりであり、リーマンショックの再来でも無い限り、景気条項の発動は不可能に近い。恐らくマスコミは8月12日のGDP速報値発表を「消費増税に青信号」ととらえて、今後の流れを決めてしまう可能性が高い。景気条項には、首相が「経済成長率、物価動向等種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」との付則がつけられている。実際には4~6月の経済指標を見て、秋に首相が判断することになっている。しかし昨年8月の法案成立の経緯を見れば、景気条項は明らかに景気を直撃する異常事態を想定している。幹事長・石破茂は「経済状況の激変、例えばリーマンショックのようなケースを想定している。法律はそう読むべきだ」とテレビで発言。同席した民主党の前外相・前原誠司も「景気条項は私が政調会長の時に挿入させたものだが、その通りだ」と同意している。

 これに対して浜田は、1997年に橋本政権が消費税を3%から5%にした時を例に挙げ、「税収は想定よりも伸びなかった。増税が一因であった」と反対している。たしかに「一因」であったには違いないが、すべてではない。橋下の際は、まさにアジアの通貨危機の真っ最中であり、これが増税とぶつかって、税収に大きな影響を与えたのである。これを無視している上に大きな視点を見逃している。それは財政赤字が1000兆円に達し、当時より遙かに財政が厳しい状況にあることである。逆にアベノミクスがもたらした民間の経済指標は、当時よりも遙かに好転し始めている。民間の調査期間によると、判断の焦点となる4~6月のGDPは、年率平均で前期比3.5%の伸びを示している。6月の完全失業率に至っては4年8か月ぶりに3.9%と3%台に乗っている。副総裁・高村正彦も「安部さんは法律が出来たときよりよい経済状況の下で判断をすることになる」として、政府のGDP速報値も「それほど悪いものは出ない」と予測している。しかし浜田は、あくまでアベノミクスの成功にこだわる。「アベノミクスが失敗する方が、市場の評価を落とす」と譲らない。これに対して日銀総裁・黒田東彦は「消費税の引き上げにより成長が大きく損なわれることにはならない」と断定、「消費増税を断念して財政運営に対する信認が失われれば、長期金利が上昇する」と強い懸念を示している。前原も同様で「上げなかった場合の方がデメリットが大きい。国債の暴落を招き、金利は暴騰する。上げれば機動的な財政運営が可能となり、うまく景気の落ち込みをコントロールできる」と強調、上げなかった場合の“日本売り”に懸念を示す。

 浜田は法案成立の際の経緯を知らない上に、総選挙や参院選挙を経て議席数が大きく変動しても、自公民の合意の基調に変化がなく、政治の大勢は基本的に消費税は法案通りの実施の流れであることが分かっていないように見える。ところが安倍は、依然浜田の“影響下”にあるようだ。財務省が8月上旬に消費増税を織り込んだ中期財政計画を策定することに待ったをかけたのだ。「中期計画では消費増税を決め打ちしない」と発言したのだ。財務省も首相発言を無視して策定するわけにはいかない。苦肉の策で、中期財政計画は消費増税を盛り込まないまま、国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字は、現在のおよそ34兆円から17兆円程度改善する必要があると明記することになった。このうち、一般会計の基礎的財政収支については、2014年度と15年度にそれぞれ4兆円程度、合わせて8兆円改善するとしている。消費税は盛り込まないが8兆円の改善という、荒唐無稽な「また裂き計画」を来週にも出さざるを得ないことになったのだ。

 こうした対立を抱えながらも、安倍・浜田コンビは増税派の包囲網にあって敗色が濃いのが実情だ。今後の主要日程は8月2日に短期臨時国会、上旬に中期財政計画とりまとめ、12日GDP速報値発表、9月5、6日ロシア・サンクトペテルブルクG20、9日GDP改定値発表、11日尖閣国有化一年、下旬内閣改造、10月臨時国会という流れだ。安倍は9月の改定値発表後に消費増税の判断をすることになる。しかしマスコミは本能的に状況判断に推定を加味して決め打ちする傾向がある。12日の段階で、速報値が民間予測の3.5%程度になった場合、これを増税実施への流れととらえるのは確定的である。自民党幹部や財務省幹部などが好感した発言をする可能性も高い。だいいち増税を凍結するか、改めるためには、臨時国会に新たな法案を提出して、ストップをかけなければ間に合わない。自民党の税制調査会も大勢が増税実施に傾いており、無理に断念すれば、党論は完全に分裂する。反対する主要野党もない状況だ。これでは法案を成立させるのはラクダを針の穴に通すほど難しい。従って、遅かれ早かれ安倍も最終決断に追い込まれるのが流れであろう。第2次リーマンショックはまず起きない。
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