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2013-07-29 07:03

朝日社説の「海兵隊・敵基地」反対は、馬鹿の一つ覚え

杉浦 正章  政治評論家
 「防衛大綱」中間報告が唱えた「海兵隊機能の強化」と「敵基地攻撃能力保持」をめぐり新聞の論調が割れた。読売、産経、日経が推進論なのに対して、朝日は真っ向から反対、毎日は反対に近い慎重論だ。言うまでもなく「大綱」中間報告は尖閣諸島奪取を目指す中国と、北朝鮮の核ミサイル開発を強く意識したものとなっており、年末の「大綱」閣議決定への先駆となるものである。新聞論調には、我が国周辺の状況認識の差が強く反映されている。反対論急先鋒の朝日の社説はもっぱらよりどころを「国是としての専守防衛」に置いている。もはや「専守防衛」では対処しきれない事態を無視し、冷戦時代の国防思想を盾に反対している。時代の状況を見て見ぬ振りをする時代錯誤が背景にある。「大綱」中間報告は、(1)自衛隊の海兵隊機能の強化、(2)弾道ミサイルへの総合的対応能力の充実、(3)高高度滞空型無人機の導入を掲げている。ミサイルへの総合的対応能力が、間接的表現ながら敵基地攻撃能力の保持を指すことはあきらかだ。これに対してまず推進論をみると、その内容は一致して「緊迫感を増す極東情勢への対応が不可欠」との観点から論じられている。読売は7月28日付の社説で、「いずれも重要な課題であり、着実に実施することが大切」と論じている。これに先立つ6月25日の社説でも「海兵隊的機能を自衛隊に持たせることが急務」と主張している。産経は「大綱」中間報告を「評価したい」と、もろ手を挙げて賛成し、敵基地攻撃能力保有についても「大綱」での明記を求めている。日経は「いくら自衛隊の能力を高めても、その内容が安全保障情勢の変化に合っていなければ、宝の持ち腐れになりかねない」として、専守防衛では国防が成り立たないことを指摘。「現実に見合った路線」と評価している。

 これに対して朝日は、中国の新聞の社説かと見間違うような論調を展開している。まず海兵隊機能について「海兵隊と言えば、世界を飛び回り、上陸作戦にあたる米軍を思い起こさせる。その表現ぶりには懸念がぬぐえない」と、まるで自衛隊が米海兵隊と同様に世界中で参戦するかのような書きっぷりである。読んだ読者が「反対」に回るような巧みな「世論誘導」を仕掛けている。その最大の間違いは、海兵隊は中国が「陸戦隊」と呼ぶように名前こそ違うが、各国が保有している軍隊組織だ。イギリス、オランダ、イタリアなど西欧諸国はもちろん、ベトナム、イスラエル、レバノンに至るまで保有しているのだ。韓国、台湾などの海兵隊は米海兵隊を模範としている。従って朝日は、現実をあえて無視しているか、勉強不足なのであろう。社説はさらに続けて「高い攻撃力をもつ海兵隊と自衛隊は根本的に違う。日本には、戦後一貫して維持してきた専守防衛という原則があるからだ。米軍に類した活動に踏み出すかのような誤った対外メッセージを発してはならない」と全面否定している。一方「敵基地攻撃能力」を備えることについて、「そんな能力の保持に周辺国が疑念の目を向けることは避けられない」とやはり否定している。これを見れば明らかなように、朝日の社説は、冷戦時代から対野党対策もあって日本が後生大事に守ってきた「専守防衛」の思想に固執している。しかしこれは誤りだ。米ソ対決の時代に想定された戦争に、日本の出る幕はなかった。対ソ戦には米国を側面から支援するしかなかったのだ。だから米国は「矛(ほこ)」、日本は「盾(たて)」の思想が成り立ったのだ。

 翻って極東の現状を見れば、相手の一撃を甘受する「専守防衛」などと甘いことを言っていられないのが現状だ。北朝鮮は日本の都市の名前を列挙して核ミサイルを撃ち込むと恫喝しており、気違いに刃物でいつ発作を起こすか分からないのだ。いったんミサイルが発射されれば10分間で東京に到達する。核搭載可能な中距離ミサイル・ノドンは300基が配備を完了している。これでも「敵基地を攻撃する能力を保持するな」と言うのだろうか。もう3度目の核兵器の洗礼は何が何でも防がねばならない。たとえ危機的状況下において先制攻撃をしてもだ。中国も、公船が尖閣諸島の領海を侵犯し、艦船が日本を一周して挑発し、航空機へのスクランブルが多発している。隙あらば、尖閣奪取の機会をうかがっているとしか思えない状況が続いている。

 これに備えることが朝日の言うように「周辺国が疑念の目を向ける」のだろうか。自分の軍拡をさておいてである。朝日社説は、悠長かつ意図的な机上の空論を展開しているとしか思えない。逆に周辺国の軍拡と挑発に日本が「疑念の目」を向けて、防御の姿勢を取ることに、それほど朝日はいら立ち、憎いのだろうか。防衛力増強の最重要ポイントがその行使ではなく、敵に戦争を思いとどまらせる抑止にあることは言うまでもない。弱い脇腹を好戦的な国々にさらし続けることを奨励する、まるで見当外れの社説をなぜ展開しなければならないのだろうか。要するに朝日は、失礼ながら「馬鹿の一つ覚え」なのであろう。「専守防衛」という仏壇の奥に眠っていた経典を、今どき引きだして読み上げても、一触即発の極東情勢に対応できるはずがないではないか。反対するなら新たに理論武装してから出直すべきであろう。
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