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2006-10-03 11:00

東アジア・エネルギー・環境協力の可能性

池尾愛子  早稲田大学教授
 日本では、もし東アジア共同体を形成するのならば、それはまず機能的な性格を持つ協力関係から始めるべきであり、その対象はエネルギー・環境対策であるという点について、かなりの合意があるとみてよい。しかし、いざこの対策・協力について関係諸国の専門家(に近い人々)の間で議論を始めてみても、協力分野の特定から認識ギャップがあるようで、実際のところ、協力は進んでいない。エネルギー安全保障と環境対策に関連性があり、エネルギー効率の改善や再生可能・代替エネルギーの利用に関しては技術伝播や能力開発が重要であることについては、共通認識が存在する。

 それは、先の9月10-11日にヘルシンキで開催された第6回アジア欧州首脳会合(ASEM6)の議長声明で確認できる。アジア側から13カ国(日中韓、ASEAN10カ国)の首脳が出席したので、東アジア諸国の首脳レベルでの共通認識でもある。「環境及びエネルギー安全保障を含む持続可能な開発」のパートから拾ってみよう。「首脳は、エネルギー安全保障は、エネルギー源及び地理的供給源の多様化、エネルギー需要に影響する適切な政策、並びに、再生可能及び代替エネルギー源の研究開発における協力により、向上し得ることを確認した」(30)、「首脳は、政府を含む多層的なステークホルダーの関与、市場によるインセンティブ及び融資の提供に支えられた、技術とベスト・プラクティスの伝播等のエネルギー効率に関する措置が、直ちに相互利益をもたらすことを認識した。首脳はまた、費用対効果が高いエネルギー効率関連措置の組織的な特定を強化するエネルギー監査や評価等、キャパシティ・ビルディングへの投資の必要性を強調した」(31)

 では、どうすれば民間主体のエネルギー関連部門で協力は進むのか。東アジア諸国が協力するためには、まず経済的利害について共通認識を醸成する必要があり、そのために、ブレイン・ストーミング(頭の中に嵐を呼び込むごとく、グループで思いつくままにアイディアを出し合って議論する)によるシナリオ・プラニング[近未来の台本作成]の手法が有効だといえそうである。日本エネルギー経済研究所(エネ研)の小山堅氏責任編集「調査報告:北東アジア・エネルギー消費国共存のシナリオに関する研究会」(2006、エネ研ホームページ掲載)が、興味ある例を提供する。エネ研では、国際協力銀行の委託により、中国、韓国、日本の専門家からなる「シナリオ・ワーキング・グループ」の協力を得て、小山報告がまとめられた。そこでは、近未来に起こりうる2つのシナリオの下で、石油輸入国である中国、韓国、日本の協力の可能性が議論された。(A)「政治的安定と共存シナリオ」の下ではエネルギー部門での協力が進む一方で、(B)「不安定化と緊張シナリオ」の下では協力が進まないばかりか、エネルギー部門自体が同地域と国際市場にさらなる緊張・対立をもたらすことになる。2つのシナリオは、8つのシナリオ・カードの不確実性と重要性を計算して、ブレイン・ストーミングにより作成された。

 うち、4カードは次のとおりである。(1) 日中の政治的外交関係をどのように安定化させていくべきか? また、両国間におけるナショナリズムと領土問題にどのように対応すべきか? <最大の不確実性をもつ>、(2) 中国のエネルギー需要は今後どの程度増大するのか? <最大の重要性をもつ>、(3) 中国が省エネを進めていく上で、エネルギー協力は必要か?(4) 経済界はエネルギープロジェクトに対して強い関心を抱くか?もし(B)「不安定化と緊張シナリオ」が実現するならば、東アジアの不安定性は国際社会・経済の不安定性因子となり、省エネ技術協力が進まなければベストの省エネは実現せず、エネルギー生産や省エネ・エネルギー効率改善のための大規模な設備投資は行われず、環境破壊はすすみ、3カ国別々の対応では域外に対する交渉力は弱く、経済連携が停滞すれば経済成長が鈍化し、国内社会も不安定になるであろう。小山報告では、「日中韓の3カ国の間で、政府・産業界・専門家そして一般市民レベルにおいて、協力の重要性についての共通認識を改めて醸成し、そしてその深化を図ること」が強調されている。

 シナリオ・カードによるシナリオ・プラニングからエネルギー協力の必要性を理解していく手法を追体験することも、共通認識を獲得する際に有効であるように思われる。東アジアでのエネルギー協力の重要性について共通認識を得た上で、協力分野を特定し、比較優位を生かした協力体制を組むことになる(ここでも共通認識が必要である)。既述のように、エネルギー関連企業・産業は民間によって担われているので、3カ国政府が「費用対効果が高いエネルギー効率関連措置の組織的な特定」をする機関を設け、さらに技術伝播による社会的貢献も評価する必要があるだろう。
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