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2013-06-06 06:18

最後まで“定数”で「誤算」を重ねた民主党

杉浦 正章  政治評論家
 終盤国会は、6月26日の会期末まで3週間となったが、最重要法案である衆院の定数を「0増5減」に是正する区割り法案は、参院で審議のめどが立たず、会期末に衆院で再可決により成立する方向となった。国会運営は総選挙圧勝を背景とする自公ペースで展開、野党はアベノミクスの好調に気おされて突破口を見いだせず、“凡打”も打てないままの不調に終わった。とりわけ民主党は「0増5減」法案に賛成しながら、その区割り法案に反対するという支離滅裂な戦略を展開して、誤算に次ぐ誤算を重ねた。もはや国会では選挙制度の抜本改革は不可能であることが露呈して、民間有識者による選挙制度審議会に委ねるしか方法がない流れとなった。これに対し自民党の国会対策は、選挙制度改革を巡って“老獪(かい)”とも言える対応をとった。まず幹事長・石破茂が出来もしない定数大幅削減策を昨年の与野党合意案への対案として提示した。比例区を30議席削減した上に公明党を意識して優先枠を設けるという、憲法違反につながりかねない“愚案”だ。これが“呼び水”となって、もともと80議席削減を主張していた民主党に加えて、維新が144議席削減、生活が80議席削減と、まるで削減競争の様相を呈した。先進国でも下から2番目に議員数が少ない日本の国会を、さらに縮小すれば、“機能不全”に陥ることが目に見えている“大愚案”ばかりだ。

 石破の狙いは、ごちゃごちゃで訳が分からないようにしてつぶすところにあったのだ。政党間では個利個略が先行して、選挙制度の抜本改革など不可能と判断した上での対応であった。結局選挙制度審議会に委ねざるを得ないと読んでいるフシが濃厚である。一方、民主党は、総選挙大敗で2線級の執行部が成立、代表・海江田万里以下は、いくらあがいても攻勢の機会をつかめなかった。最初の大誤算は、いったん年末の臨時国会で成立させた「0増5減」法に基づく区割り法案の反対に回ったことだ。きっかけは各地の高裁で衆院の定数の現状に違憲判決が続出したことだ。マスコミが大きく取り上げたことに惑わされたに違いない。いったん賛成した法律に反旗を翻すという前代未聞の対応に出た。いまやマスコミの動向だけが指針となる「何でも反対」政党に落ちぶれた民主党の姿をいみじくも露呈した。しかしマスコミの論調は、民主党の意に反して逆であった。すべての全国紙が「0増5減」の区割り先行処理を主張したのだ。中には読売新聞のように高裁の「無効判決」を「乱暴すぎる」と批判するケースまで出てきた。総選挙を無効とする“エキセントリック判決”は確かに判決の方に無理があるのだ。その後の世論調査でも65%が区割り法案の今国会成立を望んでおり、民主党の法案反対は置いてけぼりを食らった形となったのだ。

 そして第2の誤算は、自公両党が実行するであろう区割り法案の衆院での再可決を、マスコミが「多数の横暴」と批判すると読んでいることである。「多数の横暴」を主張して参院選に臨めば、劣勢を挽回できるという浅はかな判断だ。しかしマスコミの論調は、前述のようにとりあえず区割り法案を先行処理して、抜本改革は選挙制度審議会に委ねよという方向にある。したがって衆院での再可決はやむを得ないものとして、マスコミは黙認する方向だろう。「多数の横暴」と批判することはあるまい。
最後の誤算は、民主党は苦し紛れに5日、みんなの党の「18増23減」案という怪しげな定数是正案の参院での同時審議に野党を扇動して乗ったことだ。

 これも無責任な参院審議の遅延策に他ならない。なぜなら自公は反対だから衆院に回っても絶対成立しないことが目に見えているからである。よしんば成立したとしても、区割りが確定して法案が成立するまでには1年以上かかる。これは早期の定数是正を求めた最高裁の違憲判決を事実上無視することになるのだ。高裁判決を受けて最高裁の判決は秋にも出される方向であり、「0増5減」すら実現しなければ、再度違憲または無効判決が出され、国会への不信は抜き差しならぬものとなるだろう。こうして民主党は“一大誤算政党”の様相を呈したまま、参院選に突入することになる。終盤国会の展開は、おそらく参院での区割り法案をめぐり膠着状態が続くだろう。そうこうするうちに4月23日に衆院で可決された同法案が憲法の60日規定により22日以降衆院での再可決が可能となる。野党が急展開で方針を変更しない限り、翌週の24日から会期末の26日までの間に衆院での再可決という流れになるだろう。可決は、与党が「野党は0増5減法案に賛成しながら、その区割りには反対した」と総選挙で攻撃するプラスの材料となるだろう。みっともないが民主党は、今からでも遅くない。最後の誤算だけは実行せずに、区割り法案の賛成に転ずるべきだ。
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