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2013-06-04 10:16

(連載)TICAD Ⅴ:日本―アフリカ関係の新時代か(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 6月1日、第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)が横浜で開催されました。1993年に始まり、5年おきに開催されるTICADは、50カ国以上のアフリカ諸国の国家元首クラス、欧米諸国や国際機関、NGOの関係者を定期的に招く、日本政府が主体となる国際会議のなかで最大規模のものです。1993年、当時大学生でアフリカの勉強を始めたばかりのころ、初めて開催されたTICADに関する報道の量の少なさ(例えば新聞記事の面積の小ささ)に驚いた記憶があります。それは当時の、国内におけるアフリカへの関心の低さを象徴していたように思います。日本とアフリカの接近は、1989年の冷戦終結を契機にしていました。それまでアフリカは、一国でも多くの友好国を確保しようとする東西両陣営の「援助競争」の舞台となっていました。しかし、冷戦終結により、アフリカに援助する戦略的な理由は激減。さらに旧東側は自ら民主化と市場経済化の変動期に入ったためアフリカ支援どころでなくなり、「冷戦の勝者」西側でも財政負担による「援助疲れ」から、アフリカ向け援助が削減され始めました。これに対して、当時の日本はバブル最盛期。援助を削減する必要が特になかったことで、結果的にアフリカ内部の日本の存在感は相対的に向上しました。これはアフリカからみた日本接近の誘因となったのです。

 一方、日本からみたアフリカは、地理的にだけでなく、経済的にも政治的にも基本的に縁遠い関係にありました。そのなかで日本がアフリカへの接近を強めた背景には、日本からみたアフリカへの期待がありました。それは、資源の確保だけでなく、日本の国連安全保障理事会の常任理事国入りに関する支援を取り付けることにありました。このような日本自身の利益もあり、1993年に初めてTICADが開催されるに至ったのです。しかし、TICADを通じた日本の対アフリカアプローチは、良くも悪くも、基本的に極めて穏当なものだったといえます。つまり、TICADでは概ね日本の利益より、「アフリカの開発と平和」をいかに実現するかが中心議題となってきました。これは日本政府、なかでも外務省が、対アフリカアプローチにおいて日本の経済的利益を前面に出すことを避けたことによるといえます。

 1980年代末までの日本は、「政経分離」を標榜し、基本的に相手国の内政にほとんど関わらない立場をとっていました。その結果、アパルトヘイト体制を理由に国連による経済制裁の対象となっていた南アフリカとも貿易関係を維持し続けていたのです。しかし、これをアフリカ諸国から1988年の国連総会でこぞって批判された後、経済制裁に参加。この経緯は、日本政府をして、それまでの「国益重視」から「アフリカのための協力」へと、アフリカに対するアプローチを転換させる大きな要因となりました。言い換えれば、国益を前面に押し出していたことによる悪印象を拭い去るため、日本政府は利他的なアプローチを心がけてきたといえるでしょう。TICADでの協議内容は、2000年に国連で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)に連動しており、アフリカの貧困削減と平和の定着を念頭に置いた、国際協力を原則にしています。近年の資源価格の高騰は、「最後のフロンティア」としてアフリカへの関心を高めており、欧米諸国のみならず、新興国もアフリカ進出を強めており、そのなかで中国、インド、ブラジルなどもTICADと同様の会議を開催していますが、それらには政府、国際機関、NGOだけでなく、企業関係者も参加しており、一種の大商談会の様相を呈しています。空前のアフリカ・ブームのなか、欧米諸国も新興国も、少しでも自らの経済的利益をアフリカで確保することを目指していることと比較して、TICADのアプローチは総じて控え目です。

 これは一方で、日本国内の、特に企業のアフリカに対する関心の低さにも連動しています。アフリカに置かれている日本大使館の関係者からは異口同音に、進出を促しても、貧困、政治腐敗、インフラの未発達、治安の悪さといったカントリーリスクを恐れて多くの企業が二の足を踏む現状を残念がる声が聞こえてきます。今年1月のアルジェリアの事件で注目されたように、アフリカ大陸でもテロの拡散が顕著で、これも日本の対アフリカ投資を抑制する一因といえるでしょう。いずれにせよ、TICADを通じて日本は、かつてのように自国の利益をなりふり構わず追求する国としてでなく、いわば紳士的な国としてのイメージをアフリカに定着させることに成功してきたといえます。ただし、かつてのように日本が大盤振る舞いで援助できる時代は過ぎ去ったなか、現地の経済成長や所得向上に繋がる投資も、国際協力の一環として捉えなおす必要があると思います。(つづく)

 
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