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2013-05-27 12:22

(連載)弁護士らの生活保護法改正批判は、決めつけが過ぎる(1)

鈴木  亘  学習院大学教授
 先日、政府が閣議決定し、国会に提出した生活保護法の一部改正案に反対する声が高まっています。既に、弁護士を中心とした生活保護問題対策全国会議が、この法案の廃案を呼び掛ける激しい運動を、全国で起こしているほか、生活保護受給者支援の運動家や、専門家と称している人々からも、もっぱら反対の主張ばかりが行われています。しかし、筆者は今回の改正内容の多くはむしろ妥当なものであり、ひところの生活保護制度への批判の盛り上がり(特に、自民党の一部の強硬な批判)にも関わらず、よくこの程度の現実的な改正ですんだものだと考えています。また、まさにこの生活保護法改正とペアで提出されている「生活困窮者支援法」の画期的な内容を合わせて考えれば、むしろ、生活保護政策はずいぶんとまともな方向に進んでいるという印象を持っています。

 反対の声を挙げている弁護士や運動家の心配も分からなくもありませんが、かれらの意見(たとえば、今回の法案は水際作戦の合法化だ、扶養義務の実質要件化だ等)は明らかに「決めつけが過ぎる」と思います。そうした声ばかりが、マスコミでフォーカスされるのは明らかにバランスを欠いていますから、必ずしも反対ではない専門家の意見があることを、報告しておきたいと思います。今回、法案の廃案を求める運動家たちが批判をしている点は、(1)「水際作戦」の実質的合法化、(2)親族による扶養義務の強化、(3)調査権限の強化の3点です。これらに対する筆者の意見は、下記の通りです。

 まず、「水際作戦」の実質的合法化です。今まで慣例として口頭で申請することが許されていたものを、今後は、原則として書面で申請することとなりました。しかし、これはむしろ、これまでが行き過ぎだったのであり、書面で申請するとしたことは、私は正常なことだと思います。もちろん、中には文章が書けない人もいますから、聞き取りによる代筆を可能にするべきですが、これは、既に厚労省はそういう運用をすると宣言をしています。

 したがって、「水際作戦」の合法化とまで言うのは、やや決めつけが過ぎると思います。ただ、もちろん、一部の行き過ぎた自治体によっては、そうした運用をする可能性もありますから、厚労省が「これまで通りの運用にする」という通達を全国に出すと言うことがよいと思います。実際、口頭の申請を許すという点も、もともと法律に書いてあったわけでは無く、運用として許されてきたに過ぎませんので、書面で申請と生活保護法に書こうが書くまいが実質的には大きな違いはないはずです。これまで通り、運用が重要なのです。おそらく、この条文は、極めて政治的な配慮で、つまり、対自民党対策として入った条文なのではないかと思います。「最近は、口で申請すると言えば、簡単に申請ができる仕組みがあり、それが生活保護の濫給を生んでいる」という批判が自民党の一部でずいぶんありましたので、厚労省はその声を反映させざるを得なかったのだと思います。しかし、繰り返しになりますが、何事も、これまで通り、運用次第なのです。(つづく)
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