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2013-05-10 15:40

歴史認識のグローバル・スタンダードと日本

若林 洋介  学習塾経営
 昨年12月末、安倍内閣が発足して直後、NY・タイムスは新年(1月2日)の社説「日本の歴史を否定する更なる試み」を掲載して、警告を発している。もちろんNY・タイムスはリベラル派であり、昔から日本に対して厳しいことで有名である。その後1月26日において、同じくリベラル派のワシントン・ポストが「日本は過去を見据えよ」という論説を掲載した。ここで甘く見ていけないのは、現オバマ政権がリベラル派の民主党政権であるということである。NY・タイムスとワシントン・ポストは、米国民主党政権および米民主党・上下院議員、民主党支持層に大きな影響力を持っていると見るべきである。その民主党系有力2紙が、安倍内閣成立直後の1月の段階で、安倍内閣に対する歴史認識について批判していたことは忘れるべきではない。
                    
 今年2月末、安倍首相訪米直後の英エコノミスト誌(3月2日号)では次のように指摘されている。「オバマ政権にとって信頼しきれない対象があるとすれば、それは安倍首相その人かもしれない。尖閣諸島を巡る日本と中国の対立があわや暴走しようかというこの時期に、しかも米国も巻き添えを食うかもしれない事態なのに、米国政府は安倍首相の真意をくみ取れずにいる。これまで安倍首相は右派の議員仲間と歴史認識の見直しに向けた動きを推し進めてきた。それが今、歴史認識に関してはトーンを抑えている。」この英エコノミスト誌の指摘は、オバマ政権がリベラル派の民主党支持層に支えられていることを考えるならば十分に納得のいくものである。その後、4月23日の安倍首相による「侵略の定義は定まっていない」という発言に対しては、保守系・共和党寄りとされるウォール・ストリート・ジャーナルでさえも「日本の総理大臣が第2次世界大戦の歴史を再解釈する」と批判し、「誰が第2次世界大戦を始めたのか?我々は、これは、地球が太陽の周りを回っているのかどうかをめぐる長い間行われていた議論と同様に「決着済みの問題」の1つだと考えていた。しかし、日本の安倍晋三首相は新たな解釈を下している。・・・日本は民主主義国家で同盟国だが、しかし安倍首相の恥ずべき発言が、海外で彼の国の友人を増やすことはないだろう。」と指摘されるにいたった。

 そうなると、米国の民主党系、共和党系の両方のジャーナリズムから、総スカンを食らっているということになろう。つまりは「日本の総理大臣が第2次世界大戦の歴史を再解釈する」という指摘は、安倍首相が「第二次世界大戦についての歴史認識のグローバル・スタンダードへの“異議申し立て”」を試みたということなのである。特に米国民主党は、英国の保守党・チャーチル政権と共に第二次大戦の戦い(ルーズベルト政権)に勝利し、戦後においてはトルーマン政権が国際連合をはじめとする国際秩序の形成に努力したことに、大きな誇りを持っている政党である。

 この戦後秩序の形成においては、マッカサーの占領統治時代の民主的改革(東京裁判・日本国憲法)もその一環をなしている。チャーチル・ルーズベルトの英米協調によって「大西洋憲章」を発表してファッシズムとの戦を鮮明にして以来、彼らもまた多くの犠牲をはらい、戦後は「国連憲章」を表して、国際的戦後レジームを建設するために並々ならぬ努力をして来た。その中心勢力として常に米国民主党政権が、その大いなる責任を担ってきた。日米同盟の基礎である日米安保条約は、そのような戦後世界を主導して来た米国との協調体制の構築を目的にしたものなのである。当然のことながら、東京裁判判決で示された歴史認識の共有が前提とされており、特に米国民主党政権においては絶対に譲れない一線なのである。安倍首相は「歴史認識のグローバル・スタンダードへの“異議申し立て”」は、どんなに頑張ってみても通らないことをしっかり自覚しなくてはならない。
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