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2013-05-08 05:43

改憲論議は民主党の終わりの始まりか

杉浦 正章  政治評論家
 首相・安倍晋三が唱える改憲の発議条項96条先行処理論が、民主党にくさびとなって重くのしかかっている。護憲派と改憲派分断のくさびだ。民主党の憲法調査会は96条の改正そのものの賛否は据え置き、先行して改正すること自体には反対するという“苦肉の策”を5月7日打ち出した。とりあえず“虎口”を辛うじてのがれようというものだが、改憲の是非は棚上げで済まされる問題ではない。改憲論議は民主党の「終わりの始まり」となる可能性を秘めているのだ。そもそも96条の改憲の発議を、議員総数の3分の2から2分の1に緩和する構想は、民主党が打ち出したものだ。2002年の同党憲法調査会が96条の改正で報告書を出している。同報告書は「発議が各議員総数の過半数であれば、国民投票にかける。3分の2の多数であれば、国民投票を経ずに改正する」としている。その後もこの主張は残っており、元代表・前原誠司は2011年の読売の座談会で「まずは憲法手続きを定めた96条を改正しないといけない。憲法改正のハードルを低くしなければいけない」と主張している。

 安倍が96条改正を言い出した狙いの一つは、ここにある。前原を中心とする改憲派を動かそうというものだ。いくら鈍くても代表・海江田万里はさすがにそれくらいは気付いたようだ。党分裂の危機になりかねないからだ。そして「96条先行反対」を言い張り、憲法調査会を懸命に説得したのだ。幹事長・細野豪志に至っては、改憲派の急先鋒・長島昭久を憲法調査会の副会長に加えてしまった。取り込んだつもりのようだが、これに先立ち前首相・野田佳彦にも近い長島は、超党派の国会議員らでつくる「新憲法制定議員同盟」(会長・中曽根康弘元首相)の「新しい憲法を制定する推進大会」で挨拶に立ち、「ここにいる皆さんと全く同じ思いを持つ一人です」と発言して、万雷の拍手を受けている。要するに、96条の先行改正反対は、民主党執行部の懸命の党分裂回避策にすぎない。しかし、当面は糊塗できても、党内は、非武装中立を標榜した旧社会党左派の流れの護憲勢力と、前原や野田など改憲勢力の対立が今後抜き差しならぬ様相に突入する可能性がある。もともと水と油の勢力が同居できている方が不思議な政党なのであって、改憲論議は分裂要素として登場しているのだ。

 基本的に改憲派の中心は前原と野田に収れんされるだろう。かつて前原は「我々は憲法改正は必要だという立場だ。その中には9条も含まれている。私の従来の意見は9条第2項を削除して自衛権を明記するものだ」とはっきり9条改憲を唱えている。野田も著書で「私は新憲法制定論者だ。現行憲法は古い憲法になっている。9条はもちろん、修正することをタブー視してはいけない」と述べている。両者とも最近は刺激的な発言を避けているが、不気味な沈黙とも言える。前原は政界再編志向と言ってもよい発言をしている。「民主党のために政治をやっているわけではない。日本の政治を進めるため、同じ志を持つ人と一緒になるときが来るかもしれない。そのタイミングをどう考えるかに尽きる」と述べている。維新共同代表・橋下徹との関係は良好であり、前原は事実上の改憲勢力と言っても良い立場にある。こうした状況を見て妥協を目指す動きも民主党内にはある。党最高顧問の江田五月は「96条改正ではなく、3分の2で堂々と改憲を行うべきだ。一緒に改正案を模索して作ろうではないか」と自民党に呼びかけている。

しかし、安倍政権はあくまで96条先行戦略で突っ張る構えだ。元防衛庁長官で自民党改憲推進本部事務局長を務める中谷元は「民主党の意見集約を待っていたら、何年も無駄にしてしまう。最後は国民投票になるのだから、国民を信用すべきだ」と述べている。もう民主党の約束は誰も信用出来ないというのが、政界の本音だろう。さじを投げたか、生活代表の小沢一郎までが4日のインターネット番組で、「民主党がはっきりしない。改憲論者とそうでない人がいる。改憲を大きなテーマにするなら、そっちの人はそっちの人ではっきりすればいい」と発言、分裂を促している。沖縄に別荘を建てて「隠居半分」の人から言われたくないだろうが、言われてしまってはどうしようもない。絶えず分裂含みで推移するのが、民主党の構造であり、運命だから仕方がない。
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