国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-03-22 09:45

(連載)北朝鮮への経済制裁は有効か(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 中国との経済関係が、北朝鮮に対する制裁の効果を、無効化とは言わないまでも、著しく低減させてきたことは確かです。しかし逆に言えば、今回の経済制裁が奏功するか否かは、中国にかかってくることにもなります。今回の決議に中国は賛成し、「決議の完全実施を望む」とした一方、中断している六者協議の再開と「外交的解決」の重要性を強調しています。中国からみて、「核保有国」としての自らのステイタスが脅かされることは、それが例え友好国であっても、全く好ましくありません。また、度重なる静止にも関わらず、金正恩体制がミサイル実験を連続して強行したことが、中国政府を苛立たせているとしても、これまた不思議ではありません。

 しかし、その一方で中国には、国連決議に対して北朝鮮が「攻撃を仕掛けてくる国に対して核の先制攻撃の権利を行使する」と表明するなど、緊張がこれ以上高まることを回避したいインセンティブがあります。万一軍事衝突が発生した場合、北朝鮮の現体制が崩壊し、難民が地域一帯に流出する状況は、中国にとって悪夢でしょう。また、軍事的緊張が高まる情勢は、否応なく中国を北朝鮮側に巻き込むことにもなっています。それは、望むと望まざるとに関わらず、中国が米国と正面衝突せざるを得ない状況に向かわせます。

 これらに鑑みれば、中国が「外交的解決」で「穏便に」事を収めたいと考えるのは、ごく自然でしょう。ただし、「穏便に」ことを運ぶためには、日米韓に対してだけでなく、中国は北朝鮮に対しても相応の配慮をすることになると考えられます。六者協議に北朝鮮を出席させたいなら、なおさらです。その意味で、従来よりは多少規制を強化するとしても、「決議の完全実施」が行なわれるかは疑問です。その意味で、最初に述べたように、今回の制裁決議がすぐに期待される効果をあげるとは考えにくいのです。

 ただし、今回の制裁決議は、より中長期的に北朝鮮の行く末を左右するターニングポイントになる可能性も孕んでいます。いかに苛立っていても、中国が北朝鮮を「切れない」ことは、北朝鮮側も理解していることでしょう。中国の面子を壊してでも、ミサイル実験と核実験を強行し続けることは、それを如実に物語ります。ただ、金正日が中国とつかず離れずの距離を保ち続けたことからみれば、金正恩体制になってからの北朝鮮は、特に中国に対して「関係を切れるものなら切ってみろ」といわんばかりの態度が鮮明です。つまり、北朝鮮の挑発は、日米韓にだけでなく、中国に対しても向けられるようになったとさえ言えるかもしれません。したがって、北朝鮮が核・ミサイルの開発を推し進めて暴走するスピードと、中国の忍耐力が切れるスピードのどちらが速いか、というレースになりつつあるとみれるでしょう。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム