国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2013-03-11 23:45

(連載)米国の戦略重点は再び欧州と中東に移るのか(1)

河村 洋  外交評論家
 第二期オバマ政権は、ヨーロッパに再び戦略重点を移そうとしているようである。2月のミュンヘン安全保障会議に参加したジョセフ・バイデン副大統領は、米欧関係の強化を訴えた。同演説ではオバマ政権がイラクとアフガニスタンからの撤退に鑑み、戦略重点をアジアに移すことを明言したため、メディアを驚かせた。また、バイデン氏はマリからシリア・イランにいたるまでの中東の安全保障への対処に大西洋同盟の緊密化を訴え、ヨーロッパはアメリカ外交の要であるとも述べた。さらにバイデン氏はヨーロッパとの自由貿易協定まで提案した。2月3日に発行された独誌『ドイチュ・ウェル』は、「ヨーロッパは世界最大の経済圏なので、アジアの経済的な台頭によって必ずしも米欧関係の重要性が低下するというわけではない」との論説を掲載し、バイデン氏のミュンヘン演説を歓迎している。

 同演説に続き、オバマ大統領は一般教書演説で、EUとの自由貿易協定への支持を表明した。アメリカとEUがFTAを締結すれば、世界のGDPの40%以上、対外直接投資では50%近くを占めることになり、世界のGDPの26%を占める環太平洋経済連携協定(TPP)を大きく上回る。環大西洋FTAはアメリカの雇用創出だけにはとどまらない。大西洋の向こう側でもドイツのメルケル首相とイギリスのキャメロン首相がアメリカとの通商条約を後押ししている。また、大西洋と太平洋の双方における貿易協定の締結は、経済活動を通じて自由主義の政治的理念を広めようという意図も反映している。

 アメリカの戦略的重点が再び動いていることを示すかのように、ケリー国務長官が就任後初の海外歴訪に向かったのはヨーロッパと中東である。前任者のヒラリー・クリントン氏の初歴訪先がアジアであったことを思い起こすべきである。2月22日NBCテレビで放映された「アンドレア・ミッチェル・レポート」に出演したウィリアム・コーエン元国防長官は、ケリー氏は今回の歴訪でヨーロッパと中東の同盟国に対して聞き役に徹することになろう、と述べている。現在、アメリカと同地域諸国は、シリアやイランなどの共通の安全保障上の課題に直面している。昨年6月のNATOシカゴ首脳会議は、同盟の分裂とアメリカの指導力の欠如を印象づけてしまった。ミュンヘン演説とケリー長官の初歴訪によって大西洋同盟が再び強化されるかどうかは分からない。

 アメリカの戦略上最も重要なことは、特定地域への精力集中ではなく、世界規模での安全保障での責任を果たすこと、すなわち二か所の大規模地域紛争(MRC)への対処能力の維持である。レキシントン研究所のダニエル・ゴーア副所長は、ヘリテージ財団の特別レポートで「国防支出の継続的な削減によって、二つの主要戦場(MTW)で信頼性の高い戦闘能力を維持するという国防政策を立案することが難しくなるという大問題に陥ってしまう」という懸念を示している。極めて皮肉なことに、軍事力の近代化への投資の低下が装備の維持費を押し上げ、世界規模での作戦行動を同時に遂行する能力を低下させてしまう。ゴーア氏は、9・11同時多発テロ事件以前の段階で、ブッシュ政権がそのような傾向を覆そうとしていたと指摘する。オバマ政権による国防費削減、そしてイラクとアフガニスタンをはじめとする中東からの撤退によって、アメリカが超大国の役割を果たす気があるのか、という深刻な懸念も持ち上がっている。 さらに重要なことに、アメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任研究員はアメリカの中国に対する防衛力はアジア回帰戦略の下で充分に強化されていないと主張する。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム