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2013-03-11 00:01

(連載)アルジェリア人質事件の首謀者殺害をめぐって(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 ところが、2011年8月にカダフィ体制が崩壊したことはデビーからみて、北方の脅威がなくなったことと同時に、新たな問題に直面せざるを得ないことを意味しました。第一に、カダフィの影響下にあった諸勢力が、求心力を失って、その行動が無軌道になる状況です。実際、マリでAQIMが活動を活発化させ、同国北部の「分離独立」を宣言させるに至った直接的な契機は、カダフィ体制の崩壊にともなう、武器や人員のリビアからの流出にありました。リビアやスーダンの支援を受けた武装勢力と内戦を続けてきたデビーの立場に立てば、末端までコントロールできていたわけでないにせよ、大きな存在感をもっていたカダフィがいた頃の方が、相手方の行動を予測しやすかったとさえ言えるかもしれません。それは、スケールは全く違いますが、モスクワとの対決に集中していれば世界の大方の問題に対処できた米国が、冷戦終結後のソ連崩壊で国際環境が流動的になり、注意を分散させなくてはいけなくなったことで、対応能力を低下させた状況に酷似しています。その意味で、これまで基本的に国内の反政府イスラーム組織の鎮圧に終始していたチャド政府が、マリにまで赴いて血盟団などの掃討作戦に加わっている背景には、これらの組織の連携が他人事でなく、チャド国内に飛び火する危険性への懸念があるといえるでしょう。

 第二に、カダフィが消えたことが、それに対抗するための「手駒」であったデビーの、西側にとっての利用価値を低下させかねないことです。これまでも再三取り上げてきたように、西側先進国は原則的に開発途上国に民主化や人権保護を求め、これに反する国に対しては多かれ少なかれ制裁を課してきましたが、資源産出国や戦略的要衝に関しては、その限りではありませんでした。チャドは石油輸出国であると同時にリビアやスーダンへの対抗という観点から、西側先進国の「お目こぼし」の対象となり、その国内情勢は不問に付されてきました。つまり、デビーからみた場合、カダフィの存在は「独裁者」としての自らの立場を保全する前提条件でもあったわけです。産油国というステイタスが消えるわけでないにせよ、カダフィ体制の崩壊はデビーあるいはチャド政府にとって、国内のフリーハンドを西側から守るため、新たな存在意義を示す必要性に迫ることになったとみていいでしょう。北アフリカから西アフリカにかけての近隣地域で広がる「対テロ戦争アフリカ戦線」での勲功が、その格好の材料とみることに、大きな無理はありません。

 一方で、フランス軍にとってチャド軍は有力なパートナーです。どの国もテロ組織が跋扈する状況は望んでいませんが、他方で自国の負担が大きくなることを回避したい点で共通します。地域最大の軍事力をもつナイジェリアでさえ1200名ほどの兵力しか提供していないなか、デビーおよびチャド軍の軍事的貢献がフランスの目に好意的に写るであろうことは、想像に難くありません。

 小国がテロ組織の軍事的脅威に対応できないなか、それが「テロの脅威」を拡散させないようにするためであっても、少なくとも結果的には、小国に介入することで大国は自らの影響力を高める。一方で「独裁者」は、「テロ組織の脅威」で自らの強権的な支配を正当化するだけでなく、その鎮圧によって大国の好意すら勝ち取る。さらにその一方で、「独裁者」による恣意的な支配や、それに対する大国の黙認への広範な不満を培養層として、テロ組織は支持基盤を広げる。対テロ戦争のアフリカ戦線が拡大するなか、フランスなど域外大国、テロ組織、「独裁者」の三者は、その勢力拡大においてお互いを利用しているといえるでしょう。(おわり)
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