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2012-12-11 07:11

安倍は「集団的自衛権」確立に長期戦で取り組め

杉浦 正章  政治評論家
 選挙終盤戦にいたって自民党が公約に掲げる集団的自衛権の行使をめぐる論議が活発化している。選挙後の政権の枠組みにも絡む問題だ。推進論は自民、日本維新の会の両党。反対は公明党。民主党は首相・野田佳彦個人が賛成だ。自民党総裁・安倍晋三は推進論の急先鋒だ。しかし、当面は自公路線を継続するしかあるまい。強行すれば公明の連立離脱に直結する恐れがあるからだ。マスコミも読売、産経が推進、朝日、毎日が反対と真っ向から対立している。国論を2分する問題だが、国際的常識は国連憲章も認めているように集団的自衛権の行使が前提となる。日本の立場は非常識というか、国際的には通用しない。ここは長期戦で確立へと動くべきだ。集団的自衛権の行使とは 同盟関係にある国が攻撃されたら、それを自国に対する攻撃とみなし、実力で阻止する行動だ。どの国にもある権利だが、「日本には憲法9条があるから行使しない」と政府が公式に表明している。「わが国を防衛する必要最小限度の範囲を超えるため、憲法上許されない」(内閣法制局)とする憲法解釈が、その根拠だ。しかし、この法制局の解釈は、日米安保体制を累卵の危機に置くものであろう。米軍は若者の生命を代償に日本を守ろうとしているが、日本はその若者を見殺しにするのだから、最初から成り立たない論理だ。

 内閣法制局は、時の政権のために法解釈を論理構成するのが“仕事”であり、三百代言の別名がそれを物語っている。政府は安保論争華やかなりし頃は、この見解を活用して国会の論戦をしのいできたが、中国との尖閣問題、北朝鮮のミサイル発射という新事態を受けて、三百代言に寄りかかってばかりはいられなくなったのが実情だ。安倍も米軍を見殺しにした場合について、「その瞬間に日米同盟は危機に陥る」と危機感をあらわにしている。このため自民党は、国家安全保障基本法案を作り、集団的自衛権の行使を可能とする方針を公約に明記した。維新もこれに事実上まる乗りの公約を発表した。これに対して、公明党は自民党に対するけん制を続けている。12月10日も代表・山口那津男が「憲法の柱は守ることが重要だ。どうしてもはみ出したいと言うならば、国民も懸念を持つし、外国にも心配を与える。限界が来るかもしれない」と、連立離脱の可能性にまで言及している。一方でマスコミ対政党の議論も白熱化している。毎日が9日の社説で「集団的自衛権 憲法の歯止めが必要だ」と反対を表明したのに対して、維新副代表・橋下徹が噛みついた。それも明かな選挙違反で、「ボクは警察に逮捕されるかもしれない」と述べているツイッターで、10日、毎日批判を展開したのだ。橋下は、毎日が「政治論だけで憲法論を乗り越えるという手法には違和感が残る」と書いたのに対して「 毎日は、憲法改正は嫌だし、国家安全保障基本法も嫌。それが絶対条件だから、ロジックがむちゃくちゃになった。毎日のこの社説は、大手新聞社の社説では見られないほどのロジック破綻」とまでこき下ろしている。

 毎日は選挙報道まで共同通信に依存しており、果たして大手新聞社と言えるかかどうかは疑問が残るが、政局記事だけはさすがに老舗だけあって、朝日、読売を上回る切れ味を見せることがある。しかし毎日の社説は、レベルが低いケースが多い。今回も「憲法が他国の領土における武力行使も容認していることになってしまうのではないか。北大西洋条約機構(NATO)加盟の英国は集団的自衛権の行使としてアフガニスタン戦争に参加したが、憲法上は日本も参戦が可能となる」と、反対論者の常道である“拡大解釈”に陥っている。これはおかしい。共産、社民などの主張と同じだ。“歯止め”がかからなくなることが反対の理由だが、アフガニスタンや中東までアメリカに従って参戦するという論理を展開している政党はない。より具体的には領土、領海内とその周辺における戦闘行動に限定する方向を法案に書き込めば良いのだ。問題はその法案に実現性があるかどうかだ。国会的には極めて難しい。参院がねじれていることと、参院選が半年後にあることの、二つの事実が困難にするだろう。なぜなら安倍は選挙後の連立を当面自公を軸としたものにする方針であるからだ。安倍は自公を軸に政策ごとに維新や民主党と組むという部分連合を基本にするだろう。

 もちろん維新と組めば、集団的自衛権に法的根拠を与える国家安全保障基本法の衆院通過は見込める。両党の法案が一致している背景には安倍と橋下の事前調整があったフシもある。今の勢いからいくと場合によっては自民と維新で衆院3分の2の320は確保できるかも知れない。そうすれば参院で否決されても、衆院での再可決が可能となるが、公明の連立離脱を覚悟しなければならない。参院選での自公選挙協力はねじれ解消には不可欠であり、公明の離脱は何としても避けなければならないのだ。その辺の“調整”がつくかどうかにかかっている。それでは一朝有事の場合どうするかだが、ことは簡単だ。内閣法制局に首相が解釈の変更を求めれば良いのだ。そもそもこのような重大な憲法解釈を内閣法制局に委ねていることの方が問題だ。その上で首相自らが新解釈を打ち出せば良い。「集団的自衛権の権利は認めるが、行使を認めない」などという“また裂き憲法解釈 ”の方がおかしいのであって、時代即応型解釈に変えれば良いことだ。また戦争というのは常に“超法規”であり、政府が臨機応変に対応して決めれば済むことでもある。
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