国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-11-23 02:06

(連載)オバマ政権は対イラク政策を再考せよ(2)

河村 洋  外交評論家
 アメリカとイラク双方にとって、アル・カイダによるイラクでの根拠地形成を阻止することが国益にかなう。オバマ氏のイラク関与への消極姿勢は何とも不可解であり、アフガニスタンがテロリストの根拠地となっていたことに、アメリカが注意を払わなかったことが9・11テロの発生につながった、という教訓を忘れ去ったのではないかと思えるほどだ。リビア・ベンガジでの米大使らへの攻撃がアル・カイダによって行なわれたことを銘記すべきである。オサマ・ビン・ラディン殺害が成功したからといって、「テロとの戦い」の終結は保証されていないのである。

 オバマ政権がイラクにおける軍事的関与の拡大にそれほどまでに消極的で、しかもアジアを重点に人材や資源を配分したいというなら、イラクとの関係を緊密に保つための外交手段をもっと活用する必要がある。アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン常任研究員は、11月1日付イラク紙『アル・アーレム』への投稿にて、アメリカ・イラク間の外交チャネルにおけるコミュニケーション・ギャップについて言及しており、バグダッド駐在のアメリカ人外交官のほとんどがアラビア語を満足に話せないという。私にはこうした事態がイラン革命のケースと重なってみえる。シャーの王政崩壊の直前には、イランにはペルシア語が堪能なアメリカ人外交官やCIA要員がほとんどいなかったため、カーター政権は適切な行動がとれなかった。オバマ政権は同じ過ちを繰り返すのだろうか?

 さらにルービン氏は、イラクがワシントンにて信頼できる外交チャネルを築いていないことに言及している。アメリカは典型的な多元的民主主義の国であり、対米外交には国務省、ペンタゴン、ホワイトハウスといった公式の窓口ばかりでなく、メディア、シンクタンク、議会といった非公式の窓口も必要になってくる。イラクはそうした窓口との関係を築いていないので、ワシントンの政策形成者達はシリア、イラン、アル・カイダへの対処においてイラクの言い分にほとんど耳を傾けていない。ルービン氏はこれをイラク側の問題としてのみ語っているが、コミュニケーションとは双務的なものであるべきであり、アメリカもイラクが米国内で非公式の窓口を築けるよう支援してゆく必要があると考える。

 オバマ大統領は上院議員時代にイラク戦争にただ一人で反対票を投じたせいか、この戦争を忘却の彼方に追いやりたいのかも知れない。しかし外交には政権交代があろうとも国家としての一貫性が必要である。アメリカのイラクへの関与が急速に縮小してしまえば、この地域の若者達の間で自由への望みが高まっていることに相反し、中東の民主化という長年のビジョンが無駄になってしまう。歴史的に見ると、バグダッドはアッバース朝時代からオスマン・トルコ帝国崩壊後のイギリス統治の時代まで、アラブ世界の中心地の一つであった。中東地域全体への影響を考慮すれば、オバマ政権はイラク政策を再考しなければならない。中東の安定なくしてアジアへの軸足移転などあり得ない。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム