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2012-11-07 13:39

(連載)米国はアジア回帰しても、中東から手を抜くな(2)

河村 洋  外交評論家
 米国で10月22日に行なわれた外交政策に関する大統領選挙討論会はどのように進められたのだろうか?最終討論会で議題の中心となったのは中東であり、中国についてはあまり多く触れられなかった。ミット・ロムニー候補もバラク・オバマ候補も有権者から最高司令官としての資質に疑問を投げかけられないように、刺激的な発言を注意深く避けていた。そうした事情から討論会で両候補の主張の違いは目立ちにくくなった。

 しかし、両候補者の中東政策には基本的な違いが見られた。ブルッキングス研究所のマーティン・インディク副所長は、翌10月23日の同研究所内部インタビューで、「オバマ候補は、中東から輸入する石油へのアメリカ経済の依存度が低下するにつれ、成長著しいアジア市場への依存度が高まると考え、アジアに注意を振り向けようとしている。前政権とは異なり、オバマ政権にとって中東の民主化は最優先課題ではない。他方でロムニー候補は混乱と変動が広がるこの地域への介入に積極姿勢を示し、石油輸入への依存度が低下したからと言ってアメリカの安全保障における中東の重要性が低下するわけではない、と見ている」と述べている。

 中東におけるアメリカのプレゼンスの継続を支持するジョン・マケイン上院議員は、討論会翌日のFOXニュースとのインタビューで、「オバマ政権が性急にイラクから撤退したためにこれまでの実績が台無しになった。またアル・カイダのテロ活動がリビアからマリにいたる北アフリカに広まったとも警告した」と批判した。外交の優先度が低いと言われる今回の大統領選挙でも、中東政策は重大な関心事となっている。

 中国の台頭とアジア太平洋地域での国家間競争の激化によって、同地域におけるアメリカのプレゼンスを着実なものにする必要性が高まっている。しかし、それが中東へのアメリカの関与を低下させる理由にはならない。マケイン上院議員は折に触れて、「アメリカが中東に充分な関心を寄せなかったためにこの地域がテロリストの根城となり、最終的には9・11につながった」と主張する。中東の安全保障問題は石油よりも根深いのである。この地域における過激思想、テロリズム、専制政治、そして核拡散を野放しにすれば、世界の安全保障に大きなつけを残す。 それらの問題への取り組みは、まさにアメリカが無視することはできない課題だと言える。アメリカ主導の「テロとの戦い」を支持し、アフガニスタン復興会議を2度も主催した日本にとっても、こうした中東とアジアの戦略バランスは看過できない。(おわり)
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