国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-11-07 13:37

(連載)南アフリカでストライキはなぜ拡散したか(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 無闇にストライキを行うことは、企業だけでなくその国の経済全体にマイナスの影響を及ぼすため、褒められたことではないかもしれません。まして死傷者が出るような騒ぎになるとすればなおさらです。とは言え、生活が悪化するなかで、企業はもちろん、労働組合までもが賃上げ要求に消極的な状況が鉱山労働者たちの怒りを爆発させ、さらに(ストライキ中の鉱山労働者の一部がナイフなどで武装していたという事情があるにせよ)警官の発砲で死者が出たことが、火に油を注ぐことになったことは間違いありません。いわば政-労-資の強固なトライアングルのもとで、「体制側」に回った労働組合に裏切られたという不信感と憤りが、生活苦による労働者たちの不満を爆発させたと言えるでしょう。その不満を共有しているからこそ、国内の地方や業種を越えて、ストライキが伝播しているのです。

 今回の一連のストライキからは、南アフリカの政治的・経済的な変動の兆しをうかがうことができます。ANCは「反アパルトヘイト」で結集し、今の体制の基礎を作ってきただけに、所得やエスニシティにかかわらず、多くの黒人から幅広い支持を集めてきました。しかし、「白人による支配」という共通の打倒目標がなくなったいま、鉱山労働者など低所得者を支援する団体のなかには、既存の労働組合や、それと連なるANCと一線を画した政治勢力の形成を図る動きも出てきており、それがより戦闘的なストライキを主導しているといわれます。労働組合の求心力低下は、今後も同様のストライキが頻発する可能性すら示しています。

 一方、ストライキの拡大を防げなかったとして、J.ズマ(Jacob Zuma)大統領に批判が集まるなか、ANC内部からは鉱山の国有化も検討すべきだという声があがりはじめています。海外の投資家に警戒感を抱かせかねない意見ですから、ANCスポークスマンは「国有化はない」と強調しています。しかし、経済が政治を動かすのと同様に、政治が経済を規定することもまた確かです。世界経済が減速し、各国が自国の利益確保に向かうなかで、今後の動向は予断を許しません。

 アパルトヘイト後の南アフリカは、アフリカ随一の経済大国としてだけでなく、国内の融和に努める「虹の国」としても知られてきました。しかし、一連のストライキは、政-労-資の強固なトライアングルに支えられたポスト・アパルトヘイト体制のもとで、社会のなかの亀裂は着実に深まっていることを示しており、その混乱は主に市場への鉱物供給の不安定化を通じて、ただでさえ不透明感のただよう世界経済に深刻な負の影響をもたらすとみられるのです。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム