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2012-10-30 10:10

気負うだけの「限界政権」

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 臨時国会が召集され、野田政権が正念場を「どのような策」で危機的状況に立ち向かうのかに、国民の関心は集まっていると言っていい。しかし、筆者が危惧する「どのような策」について、首相は多分こう答えるだろう。「策などありません。わが国が置かれた状況を踏まえ、野党に真摯に説明、協力を求めたいと思います」と。臨時国会は異例の幕開けとなった。衆参両院で行われるはずの所信表明は野党が多数を占める参院で演説が拒まれ、衆院だけという憲政史上初めてのスタートだった。首相は所信表明演説で「道半ばの仕事を投げ出すわけにはいかない」と強調、さらに「やみくもに政治空白をつくって政策に停滞をもたらすことがあってはならない」と解散を迫る野党に真正面から切り込んだ。そして少しの猶予もならない重要な課題として「1票の格差是正を今国会で結論を出す」「日本経済の再生に道筋をつけ、経済対策に政策資源を重点投入する」「復興予算は被災地最優先」「領土、領海を守る当然の責務を不退転の決意で果たす」などと、積み残していたあるいは手つかずの施策推進に全力を投入すると語った。

 相変わらずの「意欲表明」である。昨年9月に野田政権が発足してからこの3年、首相はそれこそ愚直に政策推進の「大切さ」を説き続けてきた。だが、その意欲がどれだけ実を結んだだろうか。「否」と言わざるをえない。党内の「小沢グループ」と呼ばれる集団の抵抗に振り回されて、自ら訴えた党内融和の「ノーサイド」はかなわなかった。逆に小沢氏を追い込むあの手、この手の策謀が大手マスコミを取り込んで繰り広げられた。最終的には民主党政権の目の上のタンコブだった、小沢グループの大半が離党し決着がついたかに見えたが、党内に残った離党予備軍の動きが気になって、思うところは政権内の幹部クラスが代弁してつじつまを合わせることに終始した。見栄を張って紹介した閣僚も資質を問われて問責され、次々と退場した。この間も、御大の首相の言葉はきれいごと、抽象論の域を出ていない。御大として、生臭い話はできないからだった。

 首相が「国益」を振りかざして言い出したTPP然り、原発事故対応・再稼働然り、日米同盟の具体論の前のめりも説明がつかない。すべて抽象論で急場をしのいだだけで、具体的に自ら引っ張ることはなかった。例えば日米同盟の基本となる沖縄基地についても、首相の認識は日米関係を正常に戻そうという線上での問題意識であって、基地問題に苦悩する沖縄県の特殊事情には目をつぶったままだった。29日の所信表明演説に具体性がなかったことは、野党が批判するとおりだ。キャッチフレーズ好きの首相は、今度は「明日への責任」を何度も繰り返した。私は正直、苦笑してしまった。言わんとする「責任」を取らなかったのは「誰か」である。野田政権発足以来の閣内の不統一、閣僚や党幹部の場当たり的な発言はどうなのか。その線上に野田政権への不信があった。内閣支持率は低迷するどころではない。いまでは民意は完全に政権を見放していると言っていい。その政権トップが、野党の攻撃を「政治空白は許されない」と言うのは自らの責任を何ら自覚していないことの証拠である。

 「むなしい所信表明」と言わざるをえない。野田政権の「終章」は始まった。言論の府の国会がまともに機能することは期待できない。それは、政権側が言う野党の無理難題のせいにするのは正確ではない。国政は常に国民の視点を忘れてはならない。それは言葉だけの視点ではない。古めかしい言葉でいえば「経綸」である。世界情勢はめまぐるしく動いている。にもかかわらず、現政権にはその状況への戦略も知恵も度胸もない。政権が好んで多用する言葉は「戦略」だが、肝心の戦略がまるでない。言葉の遊びもいいところだ。臨時国会に立ち向かう野田政権は先の改造で閣僚の半分が交代した。首相は「チーム力の発揮」と言ったが、まことに心もとない改造布陣である。ひとり首相だけが気負っているとしか見えない。懸案山積はそのとおりだ。だが、その懸案を片付ける能力、政治力は政権にはない。党内の「離党雪崩」は収まりそうにない。もはや「限界政権」としか言いようがない。
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