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2012-10-17 17:14

沖縄のこの現実から目をそらすな

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 沖縄本島中部で、またも米兵による地元女性に対する性的犯罪が起き、米兵2人が暴行、強姦・致傷容疑で県警に逮捕された。辺野古移設で揺れる普天間飛行場にオスプレイ配備が強行され、沖縄県民の怒りがみなぎっている最中での事件である。上京中の仲井真知事は滞在を延ばし、首相官邸、外務、防衛両省に厳重に抗議した。玄葉外相、森本防衛相はすぐさま事件の重大さに遺憾の意を表すとともに米軍の綱紀粛正を求めた。異常な事件、許されないといつにない調子で強く事件を批判した。特に知事は防衛相に対し「正気の沙汰ではない」と怒りを露わにした。沖縄の基地問題が、のっぴきならない段階に事件が起きたことへの危機感が滲んでいる。今回県警に逮捕されたのは海軍兵士。事件は16日未明起きた。被害者は飲食店の仕事を終えて帰宅途中の20代の女性。女性の知人が県警に通報、米兵は緊急逮捕された。

 なぜ、こうも女性に対する米兵の性的犯罪が続発するのか。米軍基地があるために避けられない事件だと県民の誰もが思う。米軍の軍政から解放されて本土復帰して40年も経つというのに、日米安保を支える強力な在日米軍の専用基地の74%が集中する沖縄の現実がこれである。事件防止の対策は様々取られているにもかかわらず事件が続発するのは、部隊移動などで出入りの激しい米軍兵士の一般住民に対する軍規が徹底していないからである。そして決定的なのは、犯罪を裁く日本側の逮捕・捜査権が「日米地位協定」で制約を受け、日本側の裁量権が行使できないからだ。日米関係を根底から揺るがした1995年秋の少女暴行事件をきっかけに、地位協定は「運用の見直し」という形で一部改善されたことはあるが、それも「米軍側の配慮」を前提にしたものでしかない。有り体に言えば、米側の気持ち一つで何とでもできる。事件再発防止と日本側の主体的な捜査権を回復する抜本的な見直しはできていないのである。

 今回の事件は被害者が発生直後に通報したことで緊急逮捕に結びついたが、仮に通報が遅れたり被害者が世間体を慮って躊躇していたら、逮捕はおぼつかなかっただろう。容疑者が基地内に戻ってしまえば、日本側が捜査しようとしても地位協定を理由に米軍側が都合よく言い訳が出来るからだ。事件の重大さは、沖縄の基地問題がオスプレイ配備で県民の反発が極度に高まっている状況下で起きたことである。野田政権の危機感もそこにある。普天間飛行場を辺野古に移設する日米合意は、事実上凍結状態と言って間違いない。ワンセットとなっていた普天間返還・移設と沖縄駐留の海兵隊のグアム移転を切り離したとはいっても、この分離計画は具体的に少しも動いていない。普天間問題で身動きが取れなくなっているところに、オスプレイ配備が飛び込んできた。それも、尖閣問題で緊迫するアジア情勢への対応を理由にした強行配備だ。仲井真知事は野田政権の頭越しのやり方に「呆れてモノも言えない」といった感じである。もとより県民の「怒」は頂点に達している。そこに畳み掛けるように今回の事件が起きた。沖縄県幹部は「知事は事件を聞いて怒りで震えている」と語っている。

 外務副大臣は電話でルース駐日米大使に抗議、再発防止に務めるよう申し入れたという。この緊張した状況なのに、何故「電話会談」なのか。外務省の危機感が伝わってこない。これまでも事件の度に外務省幹部が米大使館に電話で抗議し善処を約束させているが、さっぱり実は上がっていないからだ。上辺だけで、ありきたりな「抗議」「申し入れ」「約束の取り付け」が、事態の改善に結びついていないことは、本土ではあまり分からないが沖縄では常識なのである。オスプレイ配備も在日米軍、とりわけ沖縄米軍の抑止力の強化だ。日米同盟の抑止力が沖縄県民の脅威となるのでは、何のための抑止力か!となる。その説明を野田政権はしていない。オスプレイ問題も、米兵の性的犯罪も日米同盟の「副次的産物」と片付けるわけにはいかない。日本にとってかけがえのない米軍基地であるならば、日本側に国民を安心させるそれ相応の自主性がなければならない。日米同盟の深化を目指すあまり沖縄に苦痛を強いることは、同盟の代償があまりにも大きいと言わざるをえない。日米地位協定の見直し、改定に逡巡するような時代ではない。要は、その気が日本側にあるかどうかである。
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