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2012-10-16 06:52

自民の「世襲復権対策」は“ザル規制”だ

杉浦 正章  政治評論家
 今朝の朝日川柳に「世襲でなくて、家業と言って」とあるが、もっともだ。自民党の積年の病弊がまたぶり返した。こそこそと衆院選挙向けに世襲候補を決めていたが、ばれると10月15日、「現職が引退する選挙区の公募手続きに党員投票を加える」と発表した。幹事長・石破茂は「その人が本当にふさわしいか、ルールを明らかにした」と胸を張る。しかし、この党員投票が果たして公平かというと、全く逆ではないか。端的に言えばおおむね党員は現職が集めたものだ。その投票となれば、結果は知れている。しょせん世襲幹事長が決める世襲制限では、“ザル規制”なのだろうか。まさにのど元過ぎれば熱さ忘れるだ。自民党は凋落の原点を忘れている。同党は元幹事長・武部勤と元防衛庁長官・大野功統がそれぞれ北海道12区と香川3区に息子を擁立することを認めた。かねてより武部は「世襲候補は党公認ではなく、無所属で立候補すべきだ」と世襲批判の先頭に立っていたはずなのに、自分のせがれの事となると、音より早く方針転換だ。元首相・福田康夫と元幹事長・中川秀直も息子への世襲を実現しようとしているところだった。

 そもそも世襲批判はどこから出てきたかを分析すれば、原因は長期自民党政治の停滞にあった。2009年の泥酔財務相事件が端的に象徴している。中川一郎の息子昭一が泥酔状態で、こともあろうにG7の財務大臣・中央銀行総裁会議に出席した揚げ句、記者会見でも酔態をさらけだした。長期自民党政権の停滞と二世議員の芯の弱さを見せつける事例であった。このため 自民党は、2009年衆院選の「次」の衆院選から、引退議員の配偶者と3親等内の親族を同じ選挙区で公認・推薦しないことをマニフェストに明記した。ところが大惨敗となった同年の選挙では、その世襲候補が大健闘したのだ。自民党で当選した119人のうち世襲議員は50人と、選挙に強いことを証明した。この結果、自民党衆議院議員に占める世襲議員の割合は、解散前の32%から42%とほぼ4割となった。当時の総裁・谷垣禎一は、選挙結果を受けて、地縁・血縁のある者も考慮するとの方針を決定。マニフェストは事実上の骨抜きとなったのだ。

 この傾向に対して、世襲立候補を禁止している民主党は、副総理・岡田克也が「公約違反の結果になっている」と批判した。マスコミも批判の矛先を自民党に向けようとしている。「まずい」と思ったか、石破は「出来レースのように一部で決めずに、候補を公正にまた透明性を以て選ぶべきだ」と述べて、地方支部に党員投票で決めるよう指示を出した。しかし、冒頭指摘したように、指示はザルに水を入れるのと同じ結果になる公算が大きい。例えば、福田や中川のような大物政治家の地盤がどうなっているかと言えば、自らが集めた党員でがっちり固められており、新人候補が手を挙げてもまず選ばれることはあるまい。息子が圧倒的に有利となるのだ。したがって執行部が決めた党員による投票は“ザル規制”となる可能性が強い。執行部の方針こそ「出来レース」であろう。

 この世襲問題の根幹は、やはり有権者の投票行動に起因する。真面目で好感が持てる自民党の政治家・小野寺五典がいい発言をしている。「世襲だと、出世が早い」というのだ。「地元もそれを求めている」のだそうだ。2世、3世は「あなたの親に世話になった」とか「爺さんに世話になった」とかで、依怙贔屓(えこひいき)される。」と指摘する。確かに当選1回で党青年局長に抜擢された小泉進次郞の例を挙げるまでもなく、親の七光りが出世に作用することは間違いない。ただし小泉の場合は、竹下登に匹敵する名青年局長ではある。小野寺によると、出世が早ければ地元の陳情も通りやすく、親のルートで処理するノウハウも身についているというのだ。「私のように何処の馬の骨とも分からない者より利用価値がある」わけだ。要するに、有権者と政治家の癒着の構図が厳として存在するわけであり、ここでも「風」で投票する「衆愚」に匹敵する、地盤、看板、カバンにすり寄る「衆愚」が存在するのだ。自民党がせっかく政権を奪還しても、4割の世襲議員のもつ“弊害”がまたまた頭をもたげる可能性があるのだ。、アメリカの世襲議員の比率は5%、イギリスは下院で3%である。同一選挙区からの世襲議員の立候補を制限することは、自由競争確保の観点から重要である。特定の政治家の“家業”に政治権力が集中することを避け、有能でやる気があり、多様な思考形態を持つ政治家を育てなければ、日本の未来はないと考えるべきだ。
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