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2012-10-12 09:46

(連載)「リーダーなき世界」でのサバイバル(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 自らの「神通力」が通じない対象が、取るに足らない小さな相手ならば、欧米諸国も鷹揚に構えられるかもしれません。しかし、既にその相手は、自らに迫る勢いをもっており、さらにその相手ぬきには自らが存立できない状況が、より欧米諸国の神経をいらだたせることになります。ノルウェーで移民排斥を訴えた極右青年による銃乱射事件や、イスラームの預言者ムハンマドを侮辱する映像に象徴される、近年の欧米諸国における排他的で攻撃的な姿勢の背景には、この「喪失への危機感」があるといえるでしょう。言い換えれば、近代以降の「成功体験」を否定されることへの拒絶が欧米諸国には渦巻いているのであり、‘Gゼロ’論をめぐる議論はその象徴なのです。

 一方で、‘Gゼロ’論を支持するにせよ、批判するにせよ、欧米諸国の政治的、経済的、軍事的な存在感が収縮つつあることは、最早誰も否定できないでしょう。その意味で、世界はフラット化しつつあるといえます。新興国の経済成長は、欧米諸国自身が推し進めたグローバル化で、投資や製造拠点が各地に拡散して行ったことの産物です。いわば、規制緩和によって全体が流動化する状況が生まれたわけですが、これは1990年代半ば以降の日本国内の状況と同じです。つまり、全体の統制がとれなくなるなかで、「自己責任」が貫徹されるシビアな状態になる、という意味において、近年の日本国内と現代の国際情勢は通じるものがあります。

 戦後の日本は、「西側」としてのアイデンティティを強め、経済的、軍事的に、超大国アメリカへの依存を強めました。それが戦後復興と高度経済成長を可能にしたことは否定できません。しかし、歴史的な円高是正のための日本の為替介入に協調しなかった、むしろ批判したことを想起すれば、アメリカもヨーロッパ諸国も経済的に疲弊し、自国の短期的利益を最優先にする兆候が顕著になっているといえます。そのなかで、さらにアメリカとの友好関係を、何よりも優先させることの意義を見出すことは困難です。

 いわば、現代の国際情勢においては、絶対確実という「鉄板」を期待することは困難で、常にリスク分散を図る必要があるのです。そのなかでは、戦後復興から高度経済成長の「成功体験」にとらわれない柔軟性をもつことが欠かせません。軸足は「西側先進国」であり続けるとしても、欧米一辺倒だった外交・通商関係を、新興国から将来の新興国たる貧困国に至るまで、多様化してバランスを図ることが、「自己責任」時代の国際環境を日本が生き残るうえで、不可欠の素養になるといえるでしょう。その意味では、「欧米諸国が圧倒的に優位な世界」の呪縛から一番逃れるべきは、欧米諸国よりむしろ、日本なのかもしれません。(おわり)
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