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2012-10-10 10:33

(連載)「リーダーなき世界」でのサバイバル(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 世界のリーダーは誰か。この問いに、多くの人は「アメリカ」と答えるでしょう。確かにアメリカは、経済力、軍事力で抜きん出た力をもち、(それを強制することで批判されますが)「自由」の理念の魅力を備えた、たぐい稀な国といえます。しかし、そのアメリカは、かつてもっていた世界に対する圧倒的な影響力を、いまだにもっているのでしょうか。

 9月のアメリカの失業率は7.8パーセント。歴史的なドル安が続いているのですから、アメリカから見たこの好条件がパフォーマンスにもっと反映されてもいいはずですが、いずれにしてもこれは4年ぶりの低水準です。大統領選挙を控えて、これがオバマ大統領の追い風になるとみられています。しかし、それは観方を変えれば、アメリカ全体が景気回復と格差是正といった、もっぱら国内問題に関心を集中させている状況を物語ります。アメリカ国外に目を転じれば、自ら火をつけたアフガニスタンやイラクからは撤退を急ぎ、シリア問題では中露の反対の前に手も足も出ず、イランへの制裁に各国を巻き込む点では気を吐いたものの、それ以上の措置は取れていません。

 「世界のリーダー」としてのアメリカに疑問符がつくなか、アメリカや日本を含む主要国首脳会議(G8)は、もはや国際秩序に大きなインパクトをもつ会合にはなっていません。特にこの数年、G8の多数を占めるヨーロッパ諸国がユーロ危機で青息吐息。日本も同様で、極度に内向きになりつつあることは、言うまでもありません。これに対して、G8に中国やサウジアラビア、インドなどの新興国を加えたG20は、そのGDPの合計が世界の約8割を占める大勢力で、こちらの決定の方がより大きなインパクトがあります。しかし、温室効果ガスの排出規制に象徴されるように、先進国と新興国の間の意見対立も多く、スピーディーな意思決定にはほど遠く、世界をリードするというより、主要国間での利害調整が主な機能となっています。

 一方で、近年のアメリカの政府や学界では、‘G2’の用語がよく用いられていました。アメリカと中国の二大国が国際的秩序を大きく左右する、というのです。しかし、これに対して中国は、「自国はまだ開発途上国で世界中の問題に対応する力はない」という立場を崩しませんでした。いわば、「大国としての責任」をアメリカに背負わされることを拒絶した形ですが、いずれにしてもこれにより‘G2’論も尻すぼみです。(つづく)
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