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2012-09-23 13:08

中国の対日経済カードは深刻な脅威か?

高峰 康修  日本国際フォーラム客員主任研究員
 日中の間で大きな摩擦が起こると、中国との経済関係悪化に起因する日本経済への影響を懸念する声が必ずといってよいほど出てくる。2010年の尖閣沖衝突事件に際しては、中国は、レアアースの事実上の対日禁輸措置という報復的手段をとった。今回のような大規模反日暴動は、中国における日本企業の活動そのものにとって障害であることは間違いない。しかし、領土問題という国家主権そのものに関する問題と経済的利益を天秤にかけるのは論理的に全く誤りである。経済に影響を理由にした対中配慮が必要か否かの議論は、これで終わりにしてしまっても一向に差し支えないのだが、中国による経済的報復が我が国にとって深刻な脅威となるのか検討してみることに、価値がないわけでもないであろう。

 日中間の貿易規模は、貿易額でいうと、2006年には約2100億ドル、2011年には約3500億ドルであり、我が国にとって中国は最大の貿易相手国である。日本企業の中国進出も大いに進んでいる。こうしたことから、中国の対日経済カードは一見極めて有効のように思われるかもしれないが、それは、経済活動の大原則を無視した議論である。すなわち、経済活動は、双方が得るところがあるから行われる、ということである。仮に、中国当局が日本製品をボイコットしても、中国国民が日本製品を必要とする限り、迂回してでも輸入することになろう。例えば、台湾と中国はECFA(経済協力枠組み協定)を結んでいるから、台湾経由というルートは有望であろう。

 それでは、対日禁輸はどうかといえば、レアアースのような限られた品目ならばともかく、広汎に実施すれば、中国企業が打撃を受けることになる。そうなれば、経済発展を唯一の正統性としている共産党支配が揺らぐことにつながる。もっとも、それ以前に、やはり迂回輸出が行われると思われる。暴動などによって、日本企業の現地法人の生産活動に深刻な影響が出る場合も、中国経済の成長が阻害されることに変わりはない。こうして見ると、中国側は、経済カードは極めて限られたやり方でしか行使できないということが分かる。レアアースのように限られた重要品目の禁輸を行うか、せいぜい日本企業に対するハラスメントをするかといったところだが、前者は日米欧によってWTOに提訴される事態となっており、こういう手段もこれ以上は困難である。さらに、「中国は意に沿わない国に対して経済的報復措置をとる国である」と世界に周知されることになれば、外資を呼び込んで経済成長を続けるというシナリオは崩壊する。既に中国はそういう警戒を招きつつある。

 中国当局が反日運動の収束化に一気に舵を切ったのは、体制批判への転化の危惧とともに、こうしたことも一因ではないかと思う。そして、賃金の上昇やバブル家崩壊の懸念により、中国自身の経済的魅力もかなり薄れてきている。我が国の経済界も、中国の代わりにもっと東南アジアに目を向けようという趨勢に変わってきているようである。これは理にかなっており、大いに歓迎すべきことである。はじめに述べた、国家主権の問題と経済的利益を比較衡量すべきでないという筋論だけでなく、経済的実態からも、中国による経済カード、あるいは中国との経済関係の悪化を恐れるべきではない。
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