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2012-09-10 00:09

居場所がなかったAPEC首脳会議

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 野田政治とは一体何なのだろうと思わざるをえない。 通常国会は、首相に対する野党の問責決議が可決された先月29日に会期を10日ほど残したまま事実上閉会となった。政府提出の法案の成立は66%にとどまり、赤字国債発行特例法案や衆院選挙制度改革法案などの重要法案は廃案となった。もともと今年度予算は国家財政の歳入を税収とほぼ同額の借金(赤字国債)に頼ったわけだから、その財源となる赤字国債法案が成立しなければ、予算執行はできない。だから、地方自治体が首を長くして待っていた地方交付税の交付はできなくなった、と財務省は地方に通告した。

 地方は怒った。当たり前だ。政局の混乱で地方の首長はある程度今日あるを予想していたが、全国知事会の山田会長(京都府知事)などは「政権が機能していないからだ」と怒りをあらわにしている。政権は野党の審議拒否を理由にするが、そこまで野党を追い込んだ政権運営に大きな齟齬があったことは間違いない。民主党は党代表選をめぐって急浮上した「細野擁立」で右往左往、結局は細野原発・環境相が不出馬となって収まったが、国会は首相問責の決議以降は国民の付託などは、そっちのけのもぬけの殻(から)同然だった。 そうした状況を知りながら、野田首相は国会会期末の恒例の会見でさらなる政権維持の意欲を示し、代表選への出馬を明言した。今では自公両党首と確認した「近いうちの解散」など構っていられないと言わんばかりの強気の会見を終え、その足で日本を出発、ロシア・ウラジオストクでのAPEC首脳会談に臨んだのである。

 さて、そのAPEC首脳会談である。 日本にとっては領土問題の当事国が勢ぞろいしている。北方領土のロシア、尖閣諸島の中国、竹島・慰安婦問題に絡む韓国だ。野田首相がどう接点を持つか注目されたが、結果は首脳会談の場で隣の韓国・李大統領と「目が合って、自然と握手した」だけで、言葉の交換はなかった。中国・胡主席とは廊下で10数分立ち話をしたが、テレビ映像に映し出された首相は、うつむき加減で何かを語っているだけで、胡主席はにこりともせずに、目線を合わさない首相を見ている風だった。竹島に上陸し、天皇の謝罪要求発言で日本国民を怒らせた李大統領が、同じ領土問題の尖閣で日本の国有化宣言に強く反発する胡主席と互いに抱き合いながら談笑する光景は、いやが上にも外交の何たるかを表している。互いに領土問題で日本と対立する中韓両国首脳が、日本に見せつけた演出のうまさ、狡猾さを思わざるをえない。

 野田首相にとって、少しばかり首脳会談の体をなしたのはロシア・プーチン大統領との会談だった。それでもロンドン五輪での柔道の話題に触れて友好を演じてみせた程度で、日本外務省が成果を誇るLNG(液化天然ガス)の対日輸出推進の合意は、両国の経済協力強化の名のもとに日本側の資金・技術協力を約束させられた側面があることを忘れてはならない。それもAPEC議長国としてのサービスなのだ。いかにもロシア流の実利外交を見せつけられたが、北方領土問題は話題にならなかったのか。首相に同行したどこの記者の記事を見ても見当たらない。せいぜい「カニの密猟防止協定」が9月8日締結されたと伝えられただけで、これは首脳会談とは関係ない話。内政で頭がいっぱいの首相に、国際舞台での存在を期待するのは無理というものか。
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