国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-08-22 06:52

政府は本気で「亡国の原発ゼロ」を目指すのか

杉浦 正章  政治評論家
 なにやら民主党政権に“悪い病気”が蔓延しだした。究極のポピュリズムという病気である。それも原発を2030年までにゼロにするという、国家の夢も希望も喪失させる“業病”である。ドイツの脱原発が大きく挫折しそうな気配をみせているにもかかわらず、日本はゼロを目指すというのだ。近づく総選挙を目指して惨敗必至の民主党政権が、禁じ手で起死回生をはかろうとしているのである。原発再稼働に着手したはずの首相・野田佳彦も風向きがおかしくなってきた。まさか8月22日の反原発デモのリーダーたちとの面会で“おいしい話し”をしないとは思うが、油断できない。ベトナムに原発を売り込みながら、国内では「できるだけ早期にゼロにしたい」という矛盾と無責任きわまりない発言をしている経産相・枝野幸男は、もともとイデオロギーに根ざした“確信犯”だ。あえて無視するにしても、国家戦略担当相・古川元久の発言だけは看過できない。自分が9月上旬にはエネルギー戦略のロードマップを決めるエネルギー・環境会議議長であるにもかかわらず、21日先頭切って「原発ゼロ」を宣言してしまったのだ。古川は「原発ゼロを目指したい。原発に依存しない社会を作りたい。多くの国民もそう思っている」と述べたのだ。行司役が結論を先に言ってしまうのだから、自ら公平な議論に門戸を閉ざしてしまったことになる。

 怪しいのは、野田もそうだ。唐突に「原発をゼロにした場合の課題の検討」などを指示している。政府は2030年の原発比率について「0%」「15%」「20~25%」という三つの選択肢を提示している。これまでは「15%」をわざと真ん中に置いて、これを落としどころとする構えを見せていた。ところが、全国11カ所で開いた意見聴取で意見を述べた者の7割が原発ゼロであったことが独り歩きし始めた。7割が国民や産業界の総意を代表するなどということは何の科学的な根拠もない。むしろ意見開示した婦人がかん高い声で「怖いんです」などと述べていたが、感情論が圧倒的多数であった。問題は原発ゼロで国が成り立ってゆくかということであるが、原発ゼロは亡国の思想であることがすぐに分かる。まず安全保障の見地から見れば、尖閣諸島、竹島、北方4島で隙あらばと対日揺さぶりをかけている国々は、すべて原発推進である。これが何を意味するかと言えば、中国、韓国、ロシアは、安くてふんだんに使える電力を活用して国力を伸ばし、日本は原発ゼロで自らの手足を縛って間違いなく衰退の道をたどることになる。

 電気料金が倍になれば、日本では企業が成り立たなくなる。廃業の危機に瀕するのだ。いくら製品輸出で稼いでも、国富の大半はアラブの産油国に貢がなければならない。だいいち日本独特の生き生きとした企業活動が確実に停滞する。効率的な製品を作ろうという技術革新への意欲は喪失する。要するに、電気料金が倍になれば、企業のやる気など出てこないのだ。原発停止は紛れもない国富の喪失である。原発ゼロでの失業者は200万人から300万人に達するという試算もある。一般家庭も、電気料金の値上げという重税にあえぐ。多かれ少なかれオール電化の傾向にある一般家庭が、戦争直後のようにローソク一本で貧しく清く美しく生きていけるのか。最先端を行く日本の原発技術も霧消する。他の先進国で1年前に原発ゼロを宣言したドイツはどうか。ドイツは2002年にシュレーダー政権が2022年頃までの原発ゼロを宣言、その後首相・メルケルが産業界の要望に応じて路線を修正したものの、2011年の福島事故で再び原発ゼロ目標へと急旋回した。それから1年たった現状はどうか。再生可能エネルギーの技術の壁とコスト高に直面している。加えて送電網の整備にかかるコストに悲鳴を上げている。

 2000年に始まった固定価格買い取り制度によって、太陽光発電は急速に普及し、現在では設備容量が2700万キロワットにまでなった。ところが、その太陽光発電が壁に突き当たっている。買い取り制度で、財政が成り立たなくなったのだ。また電気料金の高騰で住民生活に大きな影響が及び始めた。苦境に立ったメルケルは、6月に買い取り価格を20%から30%引き下げ、3~4年後には中止することとした。要するに、買い取り制度の破たんである。スペインも買い取り制度などはとっくに破たんしている。日本は、脱原発のヒステリー的な風潮の中で、冒頭述べたように亡国の「原発ゼロ」が独り歩きしそうなのだ。問題は、民主党政権の体質がポピュリズムに深く根ざしているところにある。政権を失いそうな一政党が、ここまで影響を及ぼす問題を独断で、しかも選挙対策で打ち出してよいのだろうか。産業界の声などは二の次になりがちなのだ。ずるいのは自民党など野党だ。これも選挙意識で「触らぬ原発にたたりなし」と見て見ぬ振りを極め込んでいる。問責決議を出すなら古川、枝野を真っ先にやり玉に挙げるべきところなのにだ。経産省の役人も、ここは職を賭して大臣をいさめるべき所なのに、手をこまねいている。政治も官僚も「だらしがない」の一言に尽きる。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム