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2012-08-08 21:12

原発廃止・縮小で本当によいのか?

石崎 俊雄  龍谷大学教授
 国家の繁栄とエネルギー政策は切っても切れない関係にある。日本のエネルギー政策が福島原発の事故の影響で大きく揺らごうとしている。すなわち、原子力発電の廃止、もしくは縮小を強く主張する声が高まってきているが、本当にこれでいいのであろうか。福島原発事故の前までは、低炭素化社会を作るために、原子力発電の依存度を約50%近くにまで高めようとしていたのが、それを一転して減らすという大転換をするだけでなく、そのために発電量そのものを減らすという政策の大変更である。そもそも人間にとってエネルギーとは何かを考える。人間は他の生物と違って、外的なエネルギーを自在に制御することによって自己の生命と安全を守り繁栄してきた。その中でも、電気エネルギーは近代に人類が手に入れ、現在の人類社会の繁栄を築いた礎となるものである。もし電気エネルギーが無ければ、世界人口をそれ以前の時代水準にまで減らす必要が出てくるであろう。

 昨今の議論では、節電をすれば原子力発電は要らないと公言される方が多数おられるが、家庭で使うテレビやエアコン、冷蔵庫などのための贅沢な電力は今すぐにでも無くせばいいだけの話であって、問題なのは、生産など社会を維持していくために必要な電力である。これらは、我々の生命や安全に対する代償無しには減らせない。むしろ、今後の世界的な人口増を考えれば、日本が世界の生産拠点であり続けるために、逆に発電量を増加させていかなければならない状況にある。そもそも原発事故の原因は、対策に対する批判を恐れて未熟な技術を改善して来なかった人的要因にある。炉心の安全性を高める技術開発にはある程度の時間と費用が掛かるが、電源喪失に備えての電源強化や防潮堤建設などの津波対策は何も難しいことではなく、現在の技術水準で今すぐに出来ることである。

 原発維持派の方の中にも、原発は発電コストが安いから無くせないとおっしゃられる方もおられるが、それは見当違いである。我々は、世界の人口を養っていくために、また、日本の繁栄を維持するために、多少コストが高かろうが原子力発電を維持・発展させていかなければならないのである。化石燃料を燃やしてエネルギーを得るという発想は愚の骨頂であって、そのような資源は有機化合物を生成するための大切な原料として将来長く利用していかなければならない。自然エネルギーについても、積極的に技術開発を行い発電量をどんどん増やしていくことには大賛成であるが、簡単かつ常時安定して大電力が発電可能な原子力発電に取って代われるほどの能力はない。

 それにも拘わらず、原子力発電を減らすという意見が多いのは、原発事故の被害が目に見える形で理解しやすくなったのに対して、電力を減らすことによって生じる被害はイメージし難いからではないかと思う。数十年前まで、家庭には電気製品はほとんど無く、多くの女性は大変な家事労働を強いられていた。洗濯機、掃除機、炊飯器などの電気製品の普及によって、女性が家事労働から解放されて社会進出を果たし、世帯から2人の労働力を提供できるようになって社会の生産量が増強された。また職場においても、以前の仕事の大半は肉体労働であったが、現在はモーターなどの電気装置が中心となって生産を支えている。発電量を減らすということは、大なり小なり、現在の電気製品・装置に代わって、人々の労働強化を引き起こすことになる。労働強化して社会が維持できればまだ良い方で、維持できなければ福祉を切り捨てて多少の犠牲者を許容しなければならない羽目になる。

 前述のように、エネルギーは人間が生命を維持していく上で必要不可欠なもので、これを如何に継続的に増やしていくかが、人類の将来にとっては大変重要である。例えば、冷害による飢饉などは歴史上100年毎程度の周期でおきているが、寒冷な気候になっても食糧生産を維持していくには、今後、植物工場などを導入していく必要があるであろう。そのためには、安定なエネルギー供給は絶対に必要である。今回の原発事故の引き金となった東日本大震災は数百年から千年周期であるが、飢饉は百年周期である。人類の将来に対する十分な考慮をしないで、早計に誤まった結論を出す愚は避けてもらいたいものである。
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