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2012-07-18 06:50

自民の“輿石不信”で波乱含みの参院審議

杉浦 正章  政治評論家
 どうも危機的状況の時に、言ってはいけない発言を繰り返す傾向があるのが民主党幹事長・輿石東だ。ここは参院議員3人の離党に続きそうな動きにストップをかけるべき時に、「政権が崩壊する」はない。おまけに造反防止策について「あったら教えてもらいたい」と開き直る。まるで学級崩壊放置の日教組だ。衆院で消費増税法案の迷走を招いた張本人も輿石であり、これでは参院でも野党が反発して特別委員会における消費増税法案審議の行く末が思いやられる。参院自民党の幹部は「ネックは輿石幹事長」と漏らしている。全く信用されていないのだ。参院自民党と輿石の対立は、野田が油断していると、思わぬ伏兵として作用する可能性がある。社会保障と税の一体改革関連法案の審議が7月18日から始まり、いよいよ消費税政局は参院に所を変えてぎりぎりの攻防戦に入る。いまのところ審議時間は90時間程度が予定されており、順調にいけば、8月上旬か中旬には成立のはこびとなる。問題は順調にいくかどうかだ。というのも首相・野田佳彦はいわば民主党を熱い風呂に入れている。焚き口からは消費増税法案のまきがくべられたかと思うと、原発再起動の油が注がれ、ついでに尖閣諸島国有化、環太平洋経済連携協定(TPP)もくべてしまえとどんどん“可燃物”をぶち込む。政権に目標を絶やさないのが野田流運営術であり、方向としては大道を行く正しい姿だ。

 この熱い風呂に我慢が出来なくなって最初に飛び出したのが小沢一派であり、続くのが今回の参院議員の離党だ。小沢は主として反消費税だが、今度は反原発であり、新展開だ。おりから官邸の外では脱原発のデモが盛んに行われており、絶対に漏れてはならない護衛官に対する首相の車の中でのつぶやき「大きな音がしますね」がリークされ、あおっている。まるで60年安保闘争で岸信介が「プロ野球の後楽園球場、学生野球の神宮球場は人でいっぱいだ」と漏らして、デモの火に油を注いだケースと、スケールは違うが似ていなくもない。こうした弱点を選挙だけを考える「政治屋」が利用しようと考えるのだ。しかしそこには次の世代や国家100年の計への深い考察はない。自分の選挙だけがよければよいという、破れかぶれの淺知恵とポピュリズムだけが存在する。こうした中で輿石は、3人の離党に「民主党ががけっぷちに立っているという危機的状況を共有しなければ、大変なことになる。国民の信を問う前に、政権が崩壊する」と述べたのだ。

 しかし3人離党したくらいで、選挙前に政権が崩壊するだろうか。もともと参院は与野党が逆転しており、3人出ようが、自民党に追い抜かれようが、大勢には変わりはないのだ。むしろ輿石が離党情報を事前に察知できなかったことの方が問題だ。当事者能力欠如を物語るのだ。輿石がやらねばならない最大の課題は離党予備軍への動揺を食い止めることであろう。参院のドンなら、自ら率先して引き締めにかかるべきところを、「方法があったら教えてもらいたい」では、はじめから投げているとしか思えない。自分自身の統率力欠如を棚に上げて、まるで「消費増税が悪い」と言っているように聞こえるではないか。もともと衆院段階で輿石は消費増税法案の継続審議を狙って小沢を懐柔しようとしたが、危険を察知して野田が、自らの陣頭指揮で3党合意を先行させた。ここはその3党合意路線をひたすら守り抜くしかないのだ。

 こうした輿石の姿を参院自民党は全く信用していない。参院自民党急先鋒で“着火マン”の異名をとる山本一太は、自身のブログで輿石への不信感をあらわにすると共に、“ちゃぶ台返し”論を展開している。3党合意破棄論だ。山本は「民主党内の3党合意への造反を見ると、ちゃぶ台をひっくり返す、すなわちこの法案を参院で否決する又は成立させる前に総理問責を突きつけるほうが、国民のためになるのではないかという思いが、日々、強くなっている」と述べているのだ。参院自民党執行部は、先に防衛相・田中直紀らへの問責決議案を会期半ばで提出するという強硬手段に打って出て、事態を内閣改造へと発展させた。いわば関東軍であり、何をしでかすか分からないところがある。小沢が早期解散を恐れて、内閣不信任案をちゅうちょしているのに対して、参院自民党は首相問責決議案を審議途中で出しかねないのだ。こうした強硬姿勢を自民党総裁・谷垣禎一が、野田を解散へと追い込むために“活用”できればいいが、手に負えなくなって暴走させれば、消費税法案が吹き飛びかねない要素もある。谷垣の基本路線は「参院での仕事を成し遂げたら、直ちに衆院解散に追い込んでいく」と法案成立後の衆院解散だ。この局面での大道を言うならば、まさに法案成立を最優先して、その後での激突だろうが、寸前暗黒。野田は何が起きるか分からないと用心しておいた方がよい。
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