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2012-07-09 06:52

8月政局で野田が追い込まれる構図

杉浦 正章  政治評論家
 「幹事長がぺらぺらしゃべったら、相手に手の内を知らせてしまう」と自民党幹事長・石原伸晃がテレビでしゃべっていたが、何もぺらぺらしゃべったのを聞かなくても、分かる人には十分に分かってしまうのだ。石原や副総裁・大島理森の7月8日のテレビでの発言を分析すれば、自民党の「8月政局」への戦略はおおむね見えてくる。自民党が消費増税法案成立後に戦略を対決姿勢に切り替えることは確定的だ。法案自体はよほどのことがない限り8月上旬には成立する。その後は、解散・総選挙を目がけて一直線の路線だ。首相・野田佳彦を「解散か、総辞職か」とぎりぎりのところに追い詰める。もちろん赤字国債発行の特例公債法案は人質だ。まず社会保障と税の一体改革関連法案の参院審議の動向だが、11日に本会議で趣旨説明と質疑が行われ、18日から特別委員会での審議に入る。審議時間は90時間を見込んでおり、8月上旬には成立へとこぎ着けるだろう。自民党はここまでは、マスコミに褒められた3党協力をほごにして、袋叩きに遭うような対応は取るまい。むしろ消費税は、次を狙って内心は審議促進を図りたいくらいだろう。法案成立は解散への「外堀」を埋めることになるからだ。

 そこでいかにして内堀を埋めるかだが、ここは徳川家康のようにあらゆる手段を講じて“いちゃもん”をつけるのだ。もうつけ始めているが、そのポイントは、党内に「鳩山由紀夫ら反対議員34人を抱えているのは三党合意違反」(大島)というものだ。大島は「非常に政治論として大事だ」と主張するが、まるで方広寺の鐘の「国家安康」の銘文に家康が難癖をつけたのと変わらない。執行部以下大半の議員が賛成に票を投じたことなど眼中にない。まずこれで政権を揺さぶる。9日の谷垣の衆議院予算委員会での質問も、野田が、鳩山由紀夫らの動きにどのように対処するのかに焦点を絞る。次いで、消費増税法案の成立に協力しながら「解散せよ」という“大矛盾”をどう“こじつける”かだ。この点石原は「野田さんは約束してこなかった消費税をやり、約束したマニフェストをやらないのだから、国民に信を問う必要がある」と“理論武装”している。しかし、消費税をやらせておいて、成立すると「成立したから、解散せよ」では、まさに“いちゃもん”だ。小沢一郎ですら8日のNHKで「与野党で談合しておきながら不信任案提出では、国民には理解できない」と述べるほどのものなのだ。だが、古来敵陣を攻めるのに理屈はいらない。何でもきっかけに出来るのだ。

 そこで具体的な戦術を自民党がどう取るかだ。大島は司会者に「会期末に不信任案か」と問われて、思わず本音を漏らした。「そんなに遅く重要なことを決断するのはツーレートだ」と口走ったのだ。語るに落ちたことになる。つまり9月8日の会期末に不信任では、段取りがつかないのだ。いくら野党でも自民党は、赤字国債法案が成立しなければ、10月に国家財政がパンクすることは見通している。それから逆算すれば、9月上・中旬には総選挙を終えて、新政権の手で臨時国会を開いて成立を図らなければならないと思っているに違いない。石原は「首相には、混乱を短くするため1か月で選挙を終えるから、解散した方がいいと言う」とちゃんと“手の内”をしゃべっているのだ。それには8月解散しかないのだ。いかに野田を8月解散へと追い込むかだが、アメとムチ戦術で臨むのだろう。アメは「赤字国債法案を通すが、話し合い解散せよ」というやりかただ。ムチは「衆院に内閣不信任案か、参院に問責決議案を上程する」だ。今のところは否定しているが、小沢が“小政党”と一緒になって提出する可能性がある。これについて大島は「不信任案という大問題は、小沢さんが出したからはいそうします、と言うことにはならない。そのような状況となれば、私どもが考えなければならない」と述べている。小沢の“悪印象”に乗っては損するから、自分が出すという考え方だ。

 不信任案が提出されればどうなるかだが、民主党は依然過半数を持っており、それを8月まで維持できて、団結すれば否決が可能だ。とりわけ消費増税法案に反対した議員らは、選挙基盤が弱く、解散を先延ばしにしたいと考えており、「否決」では一致する可能性がある。すぐに通るかどうかは微妙であり、簡単ではないのだ。否決されてしまえば、一事不再議で自民党の戦略は挫折しかねない。もっとも鳩山一派などが、賛成をしなくても欠席すれば、成立は可能となる。また読み切れないのだ。それでは問責決議案はどうなるかというと、これは可決可能だが、法的な拘束力はない。野田は可決されても、解散も総辞職もする必要がない。その場合について石原は「問責が通ることになれば、国会は動かなくなる。野田さんはいずれにしてもレームダックになって、解散か総辞職しかなくなる」と予測している。たしかに首相問責決議が成立すれば、参院は動きを止める。野党は間違いなく衆院も連動させて止める。国会は空転する。混乱を見かねてマスコミは、「もはや前の総選挙から3年を過ぎようとしている。解散・総選挙で国民に信を問え」という論調に転ずるだろう。野田は確実に追い込まれるのだ。
 
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