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2012-06-27 00:01

(連載)シリア問題の外交的解決は可能か(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 この環境のもと、ロシア政府は6月13日、五大国や関係国からなる、シリアに関する国際会議の開催を提案しました。この提案は、その2日前、アナン元国連事務総長が提案した、イランを含めた関係国からなる連絡調整グループの立ち上げ、という考えに沿うものです。リビアの時に設置された連絡調整グループは欧米諸国や湾岸諸国などで構成され、国民評議会を正当な交渉相手と認定するなど、少なくとも結果的には、国際的なカダフィ包囲網を敷く枠組みとして機能しました。これに乗り遅れたことで、中ロは「カダフィ体制を擁護し続けた」という立場に置かれることで、イメージ的にも大きなダメージを受けました。リビアのケースを振り返ると、ロシアが連絡調整グループの立ち上げに通じる提案をしたことは、内乱収拾に関する主導権を欧米諸国に持っていかれないようにするためのものと捉えられます。

 また、これは武器提供の疑惑など、アサド政権を支えているという批判を緩和し、「シリアの和平と安定に積極的に取り組んでいる」という国際的アピールの意味合いもあると言えるでしょう。その場合、同時に、ロシア政府はアサド政権との距離を測り始めた、ということができます。つまり、国際的な関与の枠組み作りに動き始めたということは、少なくとも「内政問題」の言辞で押し切ることをロシアが諦め始めたことを意味しており、外務大臣のアサド大統領退陣を容認する発言とも関連して、「いつまでも無条件に支えてやるわけではない」というプレッシャーをシリアにかけ始めたことを示すものです。

 一方で、先述のように、フランスを除いて欧米諸国は軍事介入に消極的な姿勢を崩していません。従って、少なからずシリアに影響力を発揮できるロシアを含めた連絡調整グループの創設は、外交的手段で対応したい欧米諸国にとっても、断りにくい提案です。欧米諸国がイランをメンバーとして認めるかは、イラン自身が核開発疑惑で制裁を受けている状況に鑑みれば、難しいと言わざるを得ません。しかし、それ以外の部分であまり難色を示せば、「欧米諸国がシリアの和平を邪魔している」といった難癖をつけられる可能性があります。

 このようにみた時、アナン元国連事務総長のプランに乗ったロシアの提案は、大筋において欧米諸国も拒絶することが困難になると思われます。その場合、外部の支援で現体制を打倒する「リビア型」ではなく、大統領の退任と出国、そして現体制の有力者が暫定的に統治するなかで緩やかに体制転換を図る「イエメン型」の決着が信憑性を帯びてくると言えるでしょう。ただし、これだけ戦闘と殺戮が大規模化した後では、国民の間の相互不信は根深く、どういう制度であれ順調に体制転換や選挙が実施されるとは予想し難く、その意味でシリアは長期に渡って内戦の後遺症に苦しむであろうことだけは確かなのです。(おわり)
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