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2012-06-20 06:25

谷垣の選択肢は「8月解散」しかない

杉浦 正章  政治評論家
 顔中髭(ひげ)だらけだが、とんと迫力のない小沢グループの東祥三が6月19日、「民主党も終わりだ」と1人で“党分裂宣言”をして、消費増税法案反対派の敗北が決まった。小沢グループは、造反して離党するかどうかの瀬戸際に追い詰められた。これにより同法案の衆院通過は確定し、政局の焦点は解散・総選挙の時期に絞られる方向となった。しかし、首相・野田佳彦は、自民、公明両党に3党合意で政治的な“付け”を負う形となった。“付け”とは、解散・総選挙の明示である。同問題の行方によっては、参院審議の大混乱も予想される。解散綱引きの最終決着はいよいよこれからなのだ。永田町では、与野党協議の最終段階で野田が自民党総裁・谷垣禎一に度々電話で妥結の懇願をした際に、「解散で前向きの話をしたに違いない」という見方が出ている。それでなければ、「マニフェスト撤回」で強硬姿勢だった谷垣が柔軟姿勢に転換した理由が見当たらないというのだ。その事実関係は両人だけの知るところだが、今後谷垣が党首会談などで公然と「解散を決断せよ」とツケの支払いを求めることは間違いあるまい。

 野田は、解散・総選挙について「やることをやり抜いた上での決断」と述べるだけで、消費増税法案成立との連動がありそうで、なさそうな立場しか表明していない。今月3日に行われた元代表・小沢一郎との2度目の会談で野田は、「話し合い解散なし」の“心証”を小沢に与えて、内閣改造と与野党協議の了承を取り付けている。だが、自公両党は甘くはない。消費増税法案での大幅譲歩の代わりに、当然野田に対して「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」かを迫るだろう。谷垣は「川の対岸にいて、解散、解散と叫んでいて、解散できるなら、こんな簡単なことはない」と発言、今後は川を渡って接近戦で解散を勝ち取る姿勢を鮮明にした。野田の答え方によっては、参院で消費増税法案が“人質”に取られる可能性も否定出来ないのだ。消費増税法案の衆院可決は野田の民主党内におけるリーダーシップを一段と強めた。しかし、小沢一派が54人以上の反対票を固めて離党した場合は、与党だけで半数の239議席に届かなくなり、少数与党に転落する。衆院でもねじれが生じかねない状況であり、その場合は内閣不信任案での揺さぶりが容易になるなど、野田政権自体は弱体化せざるを得ない。

 そこに解散・総選挙へともつれ込む要素が出てくるのだ。2009年7月21日の解散以来3年が過ぎようとしている。現憲法下での衆院議員の在職日数を平均すると、1007.6日で3年に到らぬまま次の選挙に臨むことが通例だ。もういつ解散・総選挙があってもおかしくない状況が出来ているのだ。そこで野田の選択だが、この揺れ動く政治状況の中では来年夏の任期満了による衆参同日選挙は最初に除外される。任期満了選挙などは、三木武夫が田中角栄に解散権を封じられた結果、行ったケースだけであり、通常ではあり得ないのだ。野田は、9月の代表選では再選される公算が強いものの、とても政権は解散なしでは同日選まで持つまい。そもそも現行体制で通常国会を乗り切れるかというと、状況はそれを許すまい。

 ということは、解散の時期は極めて狭まってくる。まず国会を8月まで延長するとすれば、延長国会末。3党の再合意で消費増税法案や赤字国債法案などを成立させた上での「話し合い解散」だ。この可能性が一番強い。次に可能性が強いのは、民主、自民の党首選挙が終わる9月か10月に招集される臨時国会冒頭解散だ。これも消費増税法案成立を前提にした事実上の「話し合い解散」または「あうんの呼吸解散」となる。その次に可能性があるのが秋の臨時国会末の11月解散だろう。こうみてくると8月解散、9月か10月解散、11月解散の3つに絞られてくる気配が濃厚であり、野田の選択肢は極めて限られてくる。いずれにしても「年内解散」なのだ。一方谷垣にしてみれば、解散に追い込めなかった場合には、自分の身が危うい。本人は9月の総裁選挙への出馬の意向を表明しているが、「新総裁の手で総選挙」というキャッチフレーズに敗北する可能性がある。ここは是が非でも8月解散を勝ち取りたいところだろう。この結果、消費増税法案は参院に送付されてからが正念場になると言っても過言ではない。加えて定数是正法案など今国会で処理すべき法案も山積している。おまけに参院の自民党執行部は突出型の「関東軍」だ。谷垣の戦法としては、参院の攻撃力を“活用”して8月解散に野田を追い込むしか選択肢はないと言える。
 
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