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2012-06-12 09:28

(連載)無人機によるテロリスト掃討は合法的・倫理的か(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 これに照らして、ブレナン議長あるいはオバマ政権の主張は「道徳的」、「倫理的」と言えるのでしょうか。そうとは言えないと思います。カントの道徳法則に従うなら、「敵だけに標的を絞って殺害することが倫理的」と主張する場合、同じ主張をテロリストがすることも認めなければなりません。現代では、テロ組織もハイテク兵器を駆使しています。仮にテロ組織が遠隔操作でアメリカ政府首脳だけを標的にした攻撃を行った場合、それも「倫理的に問題ない」とブレナン議長は言わざるを得なくなります。アメリカ政府関係者とは、それほど寛容なのでしょうか。つまり、ブレナン議長の主張は、自分(アメリカ)だけを例外扱いしているのであり、その意味でカントの道徳法則に反すると言えるのです。

 もちろん、テロ組織の脅威に晒されている中で、その掃討は避けられないと思います。また、その場合に無関係の市民を巻き込まないようにする必要もあるでしょう。さらにまた、アメリカ国内の嫌戦ムードと経済状況に鑑みれば、アフガニスタンやパキスタンでこれ以上米兵から犠牲者を出し続けることは、選挙を控えたオバマ大統領にとって得策ではなく、無人機による攻撃は政権あるいはアメリカにとって現実的な選択と言えるでしょう。

 しかし、そもそもカントの道徳法則に従えば、無人機による攻撃であれ、有人機による攻撃であれ、それが自らの生存を確保する必要に迫られたものとして止むを得ない場合であったとしても、「敵を殺すこと」そのものに倫理的価値を見出すことはできません。それを認めてしまえば、敵が自分を殺すことにも、同じく倫理的価値があると承認しなければなりません。つまり、「自分の安全を確保するために敵を殺すこと」は、自然的な生存欲求を満たすために認められるべきではありますが、それを「倫理的」と言うことはできないのです。「遠隔攻撃でテロリストだけをターゲットにすることは、他に被害を出しにくい」というブレナン議長の主張を認めるとしても、それは民間人に多くの犠牲者を出す大規模な掃討作戦よりも「倫理に反する部分が小さい」に過ぎず、「倫理的に問題ない」という主張は認められないのです。

 繰り返しになりますが、アメリカも国家である以上、自国を防衛する権利と義務はあります。しかし、それはあくまで自国が生存する権利を遂行しているものであり、そこで倫理的、道徳的な価値を強調することは、政治的には必要であったとしても、実際にそれらをテロリストへの遠隔攻撃に見出すことはできません。むしろ、戦争行為に倫理性を強調すること自体が、自らを過度に正当化するあまり、敵対する者からの反発を強め、無条件の対立を加熱させる側面があるといえるでしょう。(おわり)
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