国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-06-11 00:04

(連載)無人機によるテロリスト掃討は合法的・倫理的か(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 一方で、ブレナン議長は遠隔操作による攻撃が「テロリストと民間人の識別を容易にするために、誤爆によって無関係の市民を殺傷する危険性も小さく」、また「米兵の犠牲者も少なくて済む」ので、倫理的に問題ないとも述べています。要するに、「犠牲が少なくて済む」から倫理的に問題ないという論理です。恐らく、この点こそが、最も議論の余地があるところではないでしょうか。

 ブレナン議長の主張に代表されるアメリカ政府の言い分は、「米兵が現地で直接ターゲットに接近するよりも、遠隔攻撃の方がテロリストだけを殺害するのに適している」、さらに「テロリストはアメリカやその他の国で無関係の市民に無差別の殺傷行為を行っているのだから、それを攻撃し、排除することに道徳的、倫理的な呵責は必要ない」という前提に立つと言えます。国家であれ、個人であれ、危害を加えようとする者から自らを守ることは、権利として認められるべきでしょう。それは自己の生存権、あるいは自然的な生存欲求に叶うものです。ただし、それが「倫理的」かどうかは話が別です。

 オバマ大統領自身も所属するアメリカの民主党員の多くは、自覚的にか、無自覚的にか、カント的なリベラリズムにイデオロギー的な基盤をもっています。ドイツ観念論の父であるカントは、ロックら英米系の古典的リベラリストと異なり、「自然的欲求」である「幸福の追求」を制約されないことをもって「自由」とは捉えませんでした。合理的な理性を信奉したカントにとって、「自由」とは「理性が命じるところの義務として、道徳法則に従うこと」に他ならなかったのです。つまり、自然的な欲求であるところの幸福の追求は、動物が自然界の法則に従って生きることと変わらず、自然的な欲求を理性で克服することこそ、精神を解放し、人間にとっての「自由」を獲得する営為だ、とカントは捉えたのです。人間の理性に信頼を置くカントは、国際連合の原型となった、政府間組織の創設による戦争の廃絶の理念を掲げ、現代の国際政治学においてその影響は、人道危機などに陥った他国への介入などに見出すことができます。

 ところで、カントが強調した道徳法則とは、「汝の意志の格律が、常に同時に普遍的法則の原理とみなされるように行為せよ」でした。つまり、その行動や判断が、何時いかなる時でも通用するものであるようにすることが道徳的であるということです。ウソをつく行為は道徳的でない。それは、ウソをつくという意志を、何時いかなる時も容認することはできないからです。それを認めてしまえば、どんな約束も意味を失います。言い換えれば、自分を例外扱いしないことが、カントの道徳法則の核心なのです。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム