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2012-05-20 00:03

(連載)世界ウイグル会議は「蟻の一穴」になるか(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 5月14日、東京で「世界ウイグル会議」の世界会議が開催されました。日本をはじめ、各国から国会議員も出席するなか、ラビア・カーディル代表は新疆ウイグル自治区での中国政府による少数民族弾圧を批判し、人権や自由を守らないまま中国が国際社会で確固たる地位を築くことはないと強調しました。一方、中国政府は同会議が開催されないように日本政府に働きかけていましたが、結局カーディル議長をはじめ関係者らにビザが発給されました。これを受けて中国政府は、「中国の核心的利益」を守るようにとの再三の要請が無視されたとして、胡錦濤国家主席が野田首相との会談を事実上キャンセルするなど、影響は各方面に及びました。

 中国の少数民族問題としては、チベット問題がよく知られていますが、それと並んで中国政府が神経を尖らせているのがウイグル問題です。中国の西の果て、中央アジア諸国との境界に接する新疆ウイグル自治区は、面積で中国全体のおよそ6分の1を占めます。ここで最大の人口を抱えるウイグル人は、720万人以上に上り、中国の55の少数民族のうち最大規模を誇ります。ウイグル人は8世紀には既にこの地に移り住んでいたトルコ系の人々を祖先とし、その多くがムスリムです。文化的な独自性をもつウイグル人たちは、清朝によってこの地が制圧された後も独立を模索し、1944年には「東トルキスタン共和国」の樹立を宣言し、一時はソ連からの承認も取り付けました。しかし、ソ連の影響力伸張を嫌う中国は、1955年に新疆ウイグル自治区を自国の領土として正式に編入し、冷戦の環境下でソ連もこれを黙認したのです。

 その後、共産党はこの地に開拓と国境防衛、さらに少数民族管理を任務とする屯田兵組織、「生産建設兵団」を送り込み、それにつれて新疆の人口構成は大きく変化しました。中華人民共和国が樹立された1949年当時、新疆の人口のうち、ウイグル人の75.9パーセントに対して、漢人は6.7パーセントに過ぎませんでした。それが1998年のデータではウイグル人46.4パーセントに対して漢人38.6パーセントと、漢人の比率が急速に増加したのです。広く知られるように、中国では一人っ子政策がありますが、それは主に都市居住の漢人に限られ、少数民族は適用外です。にもかかわらず、新疆ウイグル自治区における漢人人口比が急速に上昇したことは、東部から漢人が大量に流入したことを示します。

 ウイグル人の間に鬱積する反中国感情は、政治、経済、文化の各面に及びます。政治では、中国ではウイグルやチベットなど、人口の多い少数民族の居住区は「自治区」となっています。しかし、自治政府は少数民族出身者が要職を占め、さらに教育などでも少数民族の言語が教えられたり、大学入学者に少数民族出身者の枠が設けられるなど、少数民族が優遇されているようですが、他方で自治区制度は漢人・共産党による中央支配の延長線上にあることも確かです。中国では党が政府に優越します。これは中央レベルだけでなく、地方でも同じです。自治区の党書記は北京から派遣され、これが少数民族出身者の多い自治政府を管理・監督するのです。形式的に自治権が認められながらも、実質的には漢人・共産党に支配される状態が、ウイグル人たちに不満を呼んだとしても、不思議ではありません。(つづく)
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