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2012-03-31 11:49

(連載)重大な転換期を迎えたオバマ政権の医療改革法案(2)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 オバマ政権の医療改革法が2014年から施行された場合、それに伴い、変化する部分は、65歳以上を対象にしたメディケアの条件に適用せず、またどのような医療保険にも加入する余裕のない、数千万人の貧困ラインの低所得者に更なる援助を拡大することです。このような追加分に対して、施行当初から2020年まで連邦政府がその費用のほぼ100%を支払い、長期的には90%くらいまで減少させることが新たな展開になるようです。ほぼすべてが共和党の知事の監督下にある26州では、長期的に連邦政府側の助成金額が減少すれば、その分だけ州の負担が増えることや、プログラムが拡大し過ぎて、連邦政府からの資金に依存している状況で、州が連邦政府のガイドラインに従わない場合、援助金は停止されることなどを理由に「強制的」であるとし、オバマ政権の医療改正法の完全撤廃を求めています。

 また最終日は、医療改正法の「強制加入」の合法性の是非に関する論争が再度重要課題となり、今後の選択の可能性が提示された点で生産性があったと思います。オバマ政権の「強制加入は通商条項に照らし合法的である」とする主張が否定され、憲法違反の決定に至った場合、上記のメディケイド拡大案も含め、医療改正法それ自体が無効になる可能性があることを示唆しながらも、分離条項(Severability Clause)に基づき、問題のある箇所を削って使える部分は残す方法があることも示唆されています。この法の生き残りを希望するオマバ政権側は「強制加入」が憲法違反である場合、罰金などの強制部分を修正し、他2~3の条項を削除するのみに留めるとことを主張しているようです。

 現在、共和党大統領候補同士で激しい対戦を展開しているミッド・ロムニー氏とリック・サントラム氏はいずれもこの法を「オバマ・ケア」と呼び、全面撤廃を掲げています。しかし、ロムニー氏はマサチュセッツ州の知事時代に、「オバマ・ケア」と類似の医療保険法を制定した事実もあって、サントラム氏はこれを「ロムニー・ケア」と呼び、「オバマ・ケア」と同様「個人の自由を侵害するような政策」として攻撃しているようです。無限に増え続けるメディケイド制度などは税制改正と平行して見直す必要がありそうです。前例のない米国で、日本、イギリス、カナダ、および他の西欧諸国が制定しているような、全ての国民に開かれた平等の医療機会を与えるニュバーサル・ヘルスケアの制定が実現する日もいずれ来ると思いますが、年月を要するのかもしれません。

 結論として、米国の医療改革法は11月の大統領選で最も重大な国内政策のひとつであり、今回の最高裁の聴聞は歴史上画期的なイベントと思われます。最高裁は現在、判事9名中5名は共和党の大統領に、他4名は民主党の大統領に指名されたメンバーで構成されています。前者5名中4名は、聴聞中の発言からオバマ政権の医療改正法に否定的な印象もありますが、それが必ずしも投票の結果を裏づけるとは限りません。特に、5対4の投票で鍵を握るアンソニー・ケネディ判事の意向も注目されます。3日間の最高裁聴聞での論争の核心部は、医療保険に加入しない個人に罰金を科すなどの「強制加入」が通商条項に照らし憲法違反であるか否かであり、最高裁の最終決定は6月末頃になることが予期されています。聴聞最終日に提示された3つの選択詞である、全面撤退、「強制加入」のみの削除、及びオバマ政権が最後の手段として要求している「強制加入」部分と他一部条項の排除に関する米議会の動向も注目されます。また、オバマ政権の代表側は、既に病気を患っている人に対して加入を拒否する保険会社の「差別」を禁止するよう最高裁に要請しています。色んな意味でオバマ政権の医療改革法は重大な転換期を迎えています。(おわり)
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